研究課題/領域番号 |
17K17218
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研究機関 | 東京歯科大学 |
研究代表者 |
笠原 正彰 東京歯科大学, 歯学部, 助教 (60779776)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 顎骨 / 骨質 / 生体アパタイト / BAp / 結晶配向性 / 骨量 |
研究実績の概要 |
超高齢化社会を迎えた我が国では骨疾患の重篤化による、「生活の質」(QOL)の低下が危惧されている。歯科領域においても、骨粗鬆症を代表とする種々の骨疾患に対して、いかに顎骨の形態と構造を維持していくかが最重要課題といえる。ヒト顎骨は歯を介した咬合力に加え、筋からの機能圧を絶えず受ける特異的な骨である。故に、顎骨に対して咬合力や種々の機能圧が及ぼす影響は強く,顎骨形態や内部構造に大きな変化を与えていることが報告されている。現状、このような力学的環境に存在する顎骨状態を定量的に評価するのは難しいため、骨密度を主体とした全域的な骨量評価が間接的に用いられている。 一方で、近年、骨の構造的要素と材質的要素に着目した「骨質」が注目されており、骨質の劣化が骨状態に影響を及ぼすことが明らかとなっている。こうした背景から、顎骨の形態構造の恒常性を維持する鍵は、骨量・骨質・力学状態を包括的に定量評価する手段を確立することであると考えられる。 本研究では、骨質因子の一つである骨基質に含まれる生体アパタイト(BAp)結晶配向性が骨強度に影響を及ぼすことに着目し、結晶学的手法を用いた局所的骨質解析によるヒト顎骨の力学機能解明ならびに、荷重条件の違いによる顎骨の構造特性について比較検討を行うことを目的とする。 本研究はこれまで主として全域的だった骨評価に対して、ナノレベルの視点から局所的な評価を行うことで、顎骨が有する力学環境に適応した複雑な構造特性の一端が解明されることが期待される。さらに、骨疾患に罹患した顎骨の骨評価に対して、骨量変化だけでなく、骨質の変化を視野に入れ解析を行うことや力学状態をも考慮に入れることにより、病態による顎骨の構造変化のメカニズムにおいて、これまで明らかとされてこなかった新たな知見が獲得できるものと確信している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複雑な力学環境下に存在する顎骨の構造特性を解明するためには、骨量・骨質・力学影響を包括的に評価する必要があることから、(1)微小領域エックス線回折法を用いたナノレベルにおけるヒト顎骨の皮質骨および海綿骨の荷重影響部位の特定・荷重支持機能の定量評価と、(2)荷重条件の違いによる顎骨の構造特性を比較検討し力学的影響を解明する。 初年度は、骨量、骨質評価の前準備として、日本人成人遺体より採取した有歯顎・無歯顎骨から試料を作製し、μCTによる撮像データをもとに骨密度計測、骨形態計測を行った。その後、有歯顎、無歯顎における皮質骨、海綿骨のBAp結晶配向性の測定を行い、過去に得たデータとの比較検討を行っている。具体的には有歯顎では上顎前歯部皮質骨の測定をしており、臼歯部の結果との差異を精査している段階である。また、顎骨の力学機能解析の評価として、ナノインデンテーション法を用いて、荷重‐変位曲線を求め、ヤング率、硬さの算出に着手している。 さらに顎骨の筋機能と力学機能の定量的評価を進めるにあたり、実験動物を用いた骨量・骨質・骨構造の経時的変化を観察している。具体的には、異なる週齢のラットを用いて咬筋付着部の皮質骨のBAp結晶配向性の計測、腱付着部の組織学的検索を行うことで、筋の機能圧による骨質の影響を観察した。その結果、腱の付着様式が異なる箇所によって、結晶配向性も異なっており、機能圧が骨質に影響を及ぼす可能性が示唆され、解明を進めている段階である。平行して、異なる荷重条件の実験動物(ビーグル犬)モデルの作製を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、初年度で得られたデータをもとに、有歯顎と無歯顎の力学環境の差異を明らかにする。また、海綿骨骨梁部において、歯を中心に構築される荷重伝達機構と、歯の喪失により変化した荷重伝達経路の解明を行う。さらに、有歯顎顎骨では計測結果を歯種ごとに分類し、局所領域における力学環境の差異を比較検討する。また、初年度に引き続き、ビーグル犬モデルの作製を行う。具体的には、卵巣を摘出した閉経後骨粗鬆症モデルを作製する予定である。作製したモデルから、骨量、骨質計測を行い、咬合により生じる荷重が顎骨の骨量や骨質にどのような影響を及ぼすのかを考察する。また、骨粗鬆症モデルで得られたデータと比較し顎骨形態や内部構造の変化として、荷重影響と骨粗鬆症による影響を比較検討し、その関連性について考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は当該年度において論文投稿予定であり、その際の論文投稿料、英文翻訳、校正作業に必要な経費などを計上していたが、計測項目の追加や試料数の増加ならびに検証に時間を要することから次年度へ持ち越しとなったため。また、当初参加予定の学会が大学職務と日程が重なっていたため、やむを得ず参加を見送ることとなったため。 次年度は上記の論文投稿にかかる費用に加え、研究成果発表や共同研究先との意見交換のための旅費を計上する予定である。 翌年度分に請求した助成金の使用計画として、主に消耗品の購入にあてる予定である。具体的には、試料切り出しに使用したバンドソーの替え刃や研磨機材、エックス線回折装置で使用するコリメータや計測で使用する際に試料を置く治具などの各種部品に対してや、実験動物の飼育に必要なケージ等に使用する。
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