本研究の目的は、神経障害性疼痛に対するエストロゲンの影響を明らかにすることである。2017年度は動物モデルの作成と行動学実験を主に行った。動物モデル作成は以下の手順で行った。1. 雌性SDラットの卵巣を摘出。2.卵巣摘出7日後に眼窩下神経を結紮し、神経障害性疼痛モデルを作製。3. 眼窩下神経結紮前と結紮3日後、7日後、11日後に口髭部を機械刺激、熱刺激することで神経障害性疼痛の発症を確認。4. 神経障害性疼痛を発症したラットを2群に分け、高容量(HE 群)または低容量(LE群)のエストロゲンを眼窩下神経結紮後12日目、13日目に2日間連続皮下注射する。これにより、性周期におけるエストロゲン濃度の多寡を再現した神経障害性疼痛モデルを作成した。行動実験は、このモデルを用いたVon Frey Testで評価した。Von Frey Testは、規定の荷重を負荷できる6 種類のプラスティックフィラメントを、最小の1g から健常側および傷害側の口髭パット部を刺激し、逃避閾値を測定した。この結果、HE群がLE群に比べ、逃避閾値が有意に低かった。2018年度は、三叉神経脊髄路核尾側亜核で免疫組織化学染色によるExtracellular signal─regulated kinaseのリン酸化(pERK)の比較を行った。通常、触刺激などの痛みを引き起こさない刺激では、ERKはリン酸化されない。しかしながら,炎症や神経障害時には、触刺激においてもERKのリン酸化を認めることから、pERKは神経障害性疼痛の指標として用いられている。本研究では、三叉神経脊髄路核尾側亜核においてHE群の方がLE群と比べpERK陽性細胞数が有意に発現していた。以上のことからエストロゲンは神経障害性疼痛の症状を増悪し、その作用部位は一次感覚神経もしくは三叉神経脊髄路核尾側亜核であることが示唆された。
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