研究実績の概要 |
PRIP(PLC-related catalytically inactive protein)は、Ins(1,4,5)P3結合性タンパク質として発見された分子で、タンパク質脱リン酸化酵素であるプロテインホスファターゼと複合体を形成し細胞機能を調節している。PRIP遺伝子欠損マウス(Prip-KOマウス)は、野生型と比較して白色脂肪組織で脂肪分解亢進が起こっており、褐色脂肪組織では、熱産生関連タンパク質であるuncoupling protein1(UCP1)の発現が亢進し高いエネルギー消費により耐肥満性を示した。平成29年度の研究において、Prip-KOマウスが寒冷刺激時に野生型と比較して体温が高く、褐色脂肪組織でのUCP1タンパク質発現が亢進しており、さらに皮下白色脂肪組織においてもUCP1タンパク質の発現を認め、Prip-KOマウスにおいてその発現が野生型と比較して亢進していることを学会で発表し、論文で報告した。 また、平成30年度の研究において、Prip-KOマウスの初代培養褐色脂肪細胞を用いて、褐色脂肪細胞のPRIPが関与するUCP1転写調節機構の分子メカニズムの解析を行った。褐色脂肪細胞のUCP1の発現調節には、PKAによるCREBやp38-MAPKのリン酸化が関与する事が知られる。PRIPとprotein phosphatase複合体は、HSLやperilipinの脱リン酸化を制御したが、CREBやp38-MAPKの脱リン酸化を調節しているかは不明である。そこで、PRIPとこれら分子との関係を明らかにするためのに、初代培養褐色脂肪細胞を用いて、アドレナリンβ受容体(あるいは、アデニル酸シクラーゼ活性化薬:フォルスコリン)刺激によるCREBやp38-MAPKのリン酸化の違いを、リン酸化認識抗体を用いて野性型と比較した。
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今後の研究の推進方策 |
褐色脂肪細胞でエネルギー変調を引き起こすPRIP領域は、PRIPとprotein phosphataseの結合領域であると想定している。そこで、この部分を分子標的とするペプチドを作製して用いれば、PRIPとprotein phosphatase複合体形成を阻害して、Prip-KO細胞でのエネルギー産生過剰を再現できると考えている。そこで、当初は平成30年度に計画していたペプチド薬の開発とその効果の検討を平成31年度に行う。 膜透過性ペプチド配列 (HIV-1由来のTATタンパク質中の配列であるオリゴアルギニン) とPRIP標的部位を遺伝子工学的手法で融合させた大腸菌発現系を構築する。作製したPRIP標的膜透過性ペプチドは、FITC で蛍光標識して褐色脂肪細胞への導入効率をフローサイトメトリー解析を行い検討する。また、初代培養褐色脂肪細胞に作製したPRIP標的膜透過性ペプチドを添加(非添加)して、エネルギー代謝の変調を引き起こすかをアドレナリン刺激による酸素消費量の変化で検討する。 さらに、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化、成熟にはインスリンシグナルを介したPI(3,4,5)P3 関連経路(PI3K/Aktのリン酸化経路)が関与しているが、PRIP分子機能解明の他の研究において、PRIPが細胞膜PI(3,4,5)P3 の調節タンパク質であり、PI(3,4,5)P3 依存的な細胞移動やAkt 経路のシグナリングを制御していることが見出された。そのため、脂肪細胞の分化、成熟の過程においてもPRIPが何らかの役割を担っているものと考えられるので、その分子調節機構についても明らかにしていく。 以上、得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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