研究実績の概要 |
肥満は、糖尿病などの糖・脂質代謝異常や高血圧、心臓病などの心血管系疾患、睡眠時無呼吸症候群のような呼吸器合併症などを引き起こす。肥満のメカニズムを明らかにし、その予防策や治療法の確立が緊急課題となっている。 PRIP(PLC-related catalytically inactive protein)は、Ins(1,4,5)P3結合性タンパク質として発見された分子で、タンパク質脱リン酸化酵素であるプロテインホスファターゼと複合体を形成し細胞機能を調節している。Prip-KOマウスでは、PRIPが促進する脱リン酸化酵素protein phosphatase 2A(PP2A)によるHSLの脱リン酸化調節の破綻により、恒常的にHSLのリン酸化レベルが高く、脂肪分解活性が亢進しているため、PRIP遺伝子欠損マウス(Prip-KOマウス)は、野生型と比較して白色脂肪組織で脂肪分解亢進が起こっており、褐色脂肪組織では、熱産生関連タンパク質であるuncoupling protein1(UCP1)の発現が亢進し高いエネルギー消費により耐肥満性を示した。 さらに寒冷環境下において、Prip-KOマウスは野生型と比較して体温が高く、褐色脂肪組織でのUCP1タンパク質発現が亢進しており、さらに皮下白色脂肪組織においてもUCP1タンパク質の発現亢進を認めた。これは、寒冷刺激による白色脂肪組織の褐色化(ベージュ化)誘導が増強され、熱産生能が高まったためであると考えられた。そのため、PRIPは白色脂肪細胞の褐色化における分化誘導プロセスにおいてもなんらかの影響を与えていると推測される。 本研究により、PRIPを介した熱産生・エネルギー消費メカニズムの一部が明らかとなり、今後のさらなるエネルギー代謝の分子基盤の研究の一助となり得、肥満に対する新たな予防法や治療法の確立につながると考える。
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