単発癌患者と多発癌患者の後ろ向き調査により、以下の臨床的特徴を有することが分かった。 1)当科で口腔扁平上皮癌と診断され治療を行った686名のうち、多発癌と診断されたものは44名(6.4%)であった。2)多発癌患者では単発癌患者と比較して、初発癌の発症年齢が高く、発症部位は歯肉に多く舌に少なかった。3)多発癌患者では単発癌患者と比較して早期症例が多かった。4)多発癌患者では白板症や扁平苔癬などの粘膜病変の併発が多かった。5)口腔癌発症のリスク因子とされる喫煙や飲酒は、多発癌発症との関連は明らかではなかった。6)多発癌患者では長期予後が悪かった。 多発癌患者では癌周囲に粘膜病変を有することが多く、これらは可視的な Field であることが示唆された。p53 による免疫組織化学的染色では、予想に反して単発癌患者においても癌周囲粘膜上皮に発現が認められるものや、多発癌患者において癌周囲粘膜上皮に発現が認められないものも存在しており、 p53 の発現様式のみでは Field 形成について説明することは困難であった。p53 に関連しない多発腫瘍発生のメカニズムの存在や、p53 以外の因子も相互に関連している可能性が示唆された。 今後はPIK3CA(abcam SP139)、CDKN2A(abcam 2D9A12)、TP53(abcam TP53/2092R)、SMAD4(abcam EP618Y)、CCND1(abcam EPR2241)発現に関しても検討を行い、またエピジェネティック異常の検証も合わせて行う予定としている。
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