本研究は線維芽細胞増殖因子(FGF)2誘導性の骨芽細胞分化において、主要なタンパク質ホスファターゼの一つであるPP2Aによる調節機構の解明を主眼に置いた研究である。PP2Aはその酵素活性において調節サブユニットの存在が重要な役割を担う。しかしながら骨芽細胞分化における分子の発現や挙動については不明であった。そこで、まず主要なFGFであるFGF2刺激によるFGFシグナル活性化によって各調節サブユニットの発現量の変化をリアルタイムPCR法を用いて調べた。これによりPR55βをコードするPpp2r2b遺伝子の発現量が増加することがわかった。さらにウエスタンブロッティング法を用いてタンパク質の発現量を調べたところ、PR55βが骨芽細胞に発現していることが明らかになった。またFGF2刺激によってその発現量の増加も認められた。 一方、これまでの文献的見解から、FGFシグナルは骨芽細胞分化に促進作用を示すと考えていたが、本研究においては、マウス骨芽細胞前駆細胞の培養実験において、分化誘導マーカーとしてアルカリホスファターゼ活性を抑制する結果となった。BMP2によるアルカリホスファターゼ活性化も濃度依存的に抑制することから、FGF2によるFGFシグナルの活性化は骨芽細胞分化に対して負に制御する機構が存在する可能性が考えられた。 興味深いことに、FGF2の濃度を極めて薄くしていくと、逆にアルカリホスファターゼ活性を促進したことから、FGFシグナルは様々な分子の相互作用を介した相反性作用を有する可能性が考えられた。
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