研究課題
【研究の目的】我々は、HLA-A24 拘束性の、3種類の腫瘍関連抗原に由来する細胞傷害性T細胞 (CTL) 誘導性ペプチドを用いた癌ペプチドワクチン療法の第二相臨床試験を、進行口腔癌患者を対象に施行した。その結果、ワクチン摂取患者の末梢血中にペプチド特異的なCTL が誘導できることが確認でき、ワクチン接種患者の全生存率が有意に延長することを報告している(Clin. Cancer Res. 21: 312, 2015)。本研究では、同種の腫瘍関連抗原に由来するペプチドを用いて、再発ハイリスクと定義される口腔癌患者に対して、Adjuvant ペプチドワクチン療法の第II相臨床試験を施行し、その安全性と有効性を検証した。【臨床試験デザイン】口腔癌に対する一次治療後に、術後病理組織学的検討で切除断端の近接や、所属リンパ節転移を認めた患者を抽出し、HLAタイピングを施行した。このうち、HLA-A24 陽性患者をワクチン接種群、陰性患者をコントロール群とした。ワクチンは、3 種類の腫瘍関連抗原に由来するペプチドを含有する3種混合溶液をIFA 1mlと混合し、腋窩の皮下に投与した。投与スケジュールは、週1回で9週連続投与を行なった。【結果】ワクチン接種群10 名の口腔癌患者について、主要評価項目として安全性と無再発生存率を、副次評価項目として全生存率、ペプチド特異的なCTL の誘導の有無、副作用の発現頻度と程度を評価することとした。その結果、重篤な有害事象は認めなかった。また、ワクチン投与でペプチド特異的なCTL の誘導がおきている事がワクチン患者の末梢血を用いた解析で分かった。無病生存率はコントロール群と比較してワクチン接種群でよい傾向ではあったが、有意差はなかった。上記は第55回日本癌治療学会総会で発表した。
3: やや遅れている
本研究においては、最終的に統計学的な解析を行うため、症例数を増やして解析を行うことが重要である。一方、本研究においてペプチドワクチン投与の対象となる症例、即ち口腔癌一次治療後の再発高リスク症例は決して多くはないのが現状である。また、その中でもワクチン投与の対象となる症例は患者本人のHLAタイピングの結果が、HLA-A2402陽性であることが条件であり、統計学的にはワクチン投与の対象となる症例の6割程度がHLA-A2402陽性となるため、実際に投与される患者数はさらに少なくなる。従って、臨床研究への登録患者数は少しずつ増加してはいるものの、十分とは言えない。また、解析に関しては症例数の増加を待つ期間に、より臨床的に意味のあるワクチン投与による患者の生体内の免疫動態を解析するために、解析対象について検討を行うこととしているが、現時点ではペプチドワクチン特異的な細胞障害性T細胞についての解析のみである。制御性T細胞や、腫瘍の免疫チェックポイント分子の発現などの項目についても検討をしたいと考えている。
よりよい臨床研究のデータを得るためには、対象症例の増加と長期の経過観察期間が必須であるが、この時間の経過を待つ間に、より臨床的に意味のあるワクチン投与による患者の生体内の免疫動態を解析するために、解析対象について検討を行う。現時点ではペプチドワクチン特異的な細胞障害性T細胞についての解析のみであるが、制御性T細胞や、腫瘍の免疫チェックポイント分子の発現なども検討する。また、多様な患者の臨床情報と免疫動態との関連性などについても解析を行いたいと考えている。
臨床研究の症例数が十分でないため、必要な解析の実験を行っていないため、次年度使用額が生じた。今後の解析が進むにつれて解析に必要な試薬や、消耗品等に当てる予定である。
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