研究課題/領域番号 |
17K17313
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
幸田 直己 東京医科歯科大学, 歯学部附属病院, 医員 (40778908)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Mkx / PDL / 歯根膜 / Mohawk |
研究実績の概要 |
申請者は平成27年までに転写因子Mohawk homeobox (Mkx) が歯根膜において遺伝子発現し、Mkx欠損マウスでは成熟に伴い歯根膜のコラーゲン線維の変性が著しく亢進することを見出した。本研究はMkx欠損マウスおよびMkx欠損ラットを用いて歯根膜の恒常性維持におけるMkxの機能を分子学的に解明することで、歯の移動に歯根膜が不可欠な矯正歯科臨床ならびに歯根膜の再生医療等に転写因子Mkxを応用する分子基盤の構築を行うことを目的としている。なお、平成29年4月の本研究プログラムの科研費受給開始に先立ち、一部のデータをまとめた報告として平成29年に国際科学誌 Development にオンライン版を発表している。上記報告の中で平成29年度に予定していた実験のうち、下記の実験は遂行した。 ・野生型およびMkx欠損マウスの上顎臼歯部の歯根膜の細胞形態を、トルイジンブルー染色の光学顕微鏡にて観察。さらに、細胞内小器官の構造や辺縁形態の詳細な形態に関して透過型電子顕微鏡による細胞レベルの形態学的観察 (10週、6か月および12か月齢)。 ・将来的にMkxをヒトに応用するための、ヒト歯根膜線維芽細胞を用いたin vitro 実験系(Mkx過剰発現やMKXノックダウン) の本実験およびデータ解析。 これら結果をふまえ平成29年度は、下記の研究実績を達成することができた。 1.Mkx欠損ラットを用いて矯正歯科学的な歯の移動実験の予備実験を開始した。 2.加齢とMkx発現量の相関の解明、遺伝子発現様相の解析 (マイクロアレイ) 10週齢の野生型およびMkx欠損マウス歯根膜から抽出したRNAからマイクロアレイを用いて各種遺伝子の発現変動に関して確認を行った。Developmentに掲載していない遺伝子に関しても解析を行い、学会発表を行った(日本分子生物学会年会)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在の状況に至る理由として、申請書にも記載のとおり、当初から下記の準備を行っていたことが大きいと考えられる。 歯根膜の分子学的研究においてはマウスの実験系では組織の絶対量が少なく歯も小さいことから、介入実験として矯正力を歯に加える実験系では、ラットを用いた報告が多い。しかしながら、遺伝子改変ラットが技術的に作製不可能であるが故に野生型ラットの実験に限定されていた。しかしこれらの問題を克服するためにこの度、我々の研究室および本学システム発生・再生医学分野との共同研究で、システム発生・再生医学分野において遺伝子編集技術(CRISPR/Cas7)を用いてMkx欠損ラットの作製、樹立に成功し本研究に用いる準備を整えていた。さらに将来的にMkxをヒトに応用するために、ヒト歯根膜線維芽細胞を用いたin vitro 実験系(Mkx過剰発現やMKXノックダウン) の予備実験を並行して行っていた。また当初、研究が計画どおりに進まない場合の対応として下記を検討していた。実際の結果と併せてここに記載する。 1. 12か月齢マウスの歯の石灰化度が高く、非脱灰標本が薄切できない場合…刃の種類を検討しそれでも困難な場合は、最も硬いエナメル質のみ削合し非脱灰の薄切を行う。→この点に関してはエナメル質のみを削合して非脱灰の薄切を行うことで実験できた。 2. 10週のマイクロアレイでは候補遺伝子の同定が難しい場合…4週および12か月齢のサンプルも追加し、歯の萌出直後、萌出完了、歯根膜成熟時で遺伝子発現変動を確認し、候補遺伝子同定の一助とする。→4週齢のマイクロアレイを追加し、10週齢と比較して昨年度Mkxの遺伝子と神経および脈管関連遺伝子の発現変動の変化を学会発表にて行った。 実験計画当初に想定した問題点が生じたものの、これら対応によって遅滞なく研究を遂行することができたと思われた。
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今後の研究の推進方策 |
下記実験を今後予定している。 1. 週齢によるMkx発現量の変化…4週、10週、6か月および12か月齢において野生型マウスを用いて歯根膜のMkx発現量を比較検討する。6か月齢以上のマウスに関しては予備実験で安定した結果を得ている凍結粉砕の手法を用いてRNA抽出を行う。マウスの加齢 (に伴う歯根膜の成熟) とMkx発現量の相関関係から近似曲線を作成し、欠損マウスの加齢に伴う表現型発症の理解の一助とする。 加齢に伴う歯根膜の恒常性維持におけるMkxの役割が概ね解明され、Mkxが関与する候補遺伝子の同定も完了した後、Mkxと候補遺伝子の歯根膜での発現局在と細胞内の発現配分を解析し、ヒトへの応用を見据え、Mkx欠損ラットを用いて矯正力を歯に加える実験を本実験として行う。 2. Mkxと関連遺伝子発現の局在比較…Mkxとの関連が疑われる候補遺伝子について、Mkx欠損マウスの歯根膜の免疫多重染色にてMkxと関連遺伝子各々の発現局在を比較する。Mkx欠損マウスにおけるMkx発現部位の確認は抗GFP抗体を用いて検討 (欠損マウスはMkx遺伝子にGFPをノックインしてMkxの機能を喪失させている)。 3. Mkx欠損ラットを用いた矯正学的歯の移動実験…8週齢の野生型およびMkx欠損ラットの前歯と第一臼歯を矯正用コイルを用いて互いに牽引するように口腔内に接着し両群ラットの歯の移動距離を経日的に14日目まで観察。その後屠殺を行いμCTにて歯の移動様相を解析。組織学的観察および免疫染色による遺伝子発現変動も確認する。 ※その他、適宜追加予定の実験 (一部)…野生型および欠損マウス歯根膜の組織切片にVon-kossa 染色を施行し、カルシウム様物質の検出を確認。検出結果によっては両群マウス歯根膜のμCT解析も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年に想定していたよりも多く実験が進んでいたこともあり、わずかに使用金額が満たず、このような状況となった。 今年度にこの金額を用いて実験器具および消耗品の購入を行い研究を継続する予定である。
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