研究課題/領域番号 |
17K17315
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
門田 千穂 東京医科歯科大学, 歯学部附属病院, 特任助教 (30736658)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 顎関節 / 骨細胞 |
研究実績の概要 |
力学的負荷と顎関節の関連性については、成長期には力学的負荷に対して下顎頭は成長促進を示す一方、成人期には過剰な力学的負荷によって下顎頭・関節窩の退行性の変化を呈する場合もあることから、条件によっては相反する変化を示す事が報告されている。現在、顎関節の力学的負荷応答性メカニズムに関する解析が進んでいるものの、細胞の動態およびシグナル伝達については不明な点が多く、未だ歯科臨床では力学的負荷が時間・空間的に顎関節へ与える影響を予測し制御する事は困難である。顎関節への力学的負荷を感知するのは、メカノセンサーを持つ軟骨細胞もしくは骨細胞と考えられるが、それらの細胞が顎関節、特に下顎頭においてどのような機能を持つ不明な点が多い。本研究では、力学的負荷が顎関節に存在する骨細胞、および骨細胞を取り巻くオステオネットワークに与える影響について分子生物学的観点から明らかにし、顎成長・顎関節変形制御に関する知見を獲得し、臨床応用への礎を築く事を目的とする。具体的には、顎関節に力学的負荷を与え、顎関節の成長および変形を引き起こす動物モデルを用い、骨細胞の表現型および細胞間コミュニケーションの解析を軸として、年齢依存性および応力依存性の検討を行う。骨細胞から分泌されるシグナル因子の同定および生体内での機能解析を目指す。本年度は、成獣マウス下顎頭変形モデルを作成し、主として顎関節骨細胞および周囲に存在する骨代謝関連細胞の組織化学的・免疫組織学的解析を施行した。今後は遺伝子発現を網羅的に解析するため、シングルセル解析の応用も検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度は、COVID-19の流行により社会的活動自体の抑制を余儀なくされた上に、施設内での研究活動の制限が重なり、予定通りの進行とはならなかった。しかしながら、基礎的な実験の遂行と同時並行で臨床的にすでに取得済みの資料を用いたretrospectiveな調査を行う事はできたため、研究がうまく進まない中でも新たな知見を得ることができた。下顎頭変形患者におけるコーンビームCT画像を用い、下顎頭内部の骨構造解析を行ったところ、骨梁構造の粗造化を認めた。上記研究結果は学内において研究発表を行った。また、下顎頭に機能異常を認める患者の症例報告を国際学会にて行った。今後も同様の患者における臨床データの蓄積、ならびに健常者のデータと比較する事で本研究の発展に繋がるものと考えており、論文作成に取り掛かる予定である。 しかしながら、モデル動物の作成および解析にやや進捗に遅れが生じている。今後は骨細胞のみならず、下顎頭における細胞動態を網羅的に観察するため、シングルセル解析などを用いて研究を進めることを検討している。そのため現在モデル動物の策定を練り直しており、下顎頭変形モデルを数種類作成し予備実験を進めている。動物種もマウスに限らず、ラットなどの、より大型の動物を使用し、情報量の増加について検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
モデル動物の確立のため、マウスもしくはラットを使用し、予備実験を継続する。モデル動物作成後、マイクロCT、組織化学的解析(トルイジンブルー染色、TRAP染色)や免疫組織学的解析を行い、表現型解析を進め、モデル動物の絞り込みを行う予定である。また、in vitroの実験系においては、モデル動物下顎頭から骨細胞の採取を試みるが、組織体積が非常に小さいため採取が困難な場合は、骨細胞様株であるMLO-Y4を使用することも検討する。細胞ストレッチ装置を使用して、力学的負荷時の表現型の検討を行う。細胞ストレッチシステムには、シリコンチャンバーに骨細胞を播種し、細胞に伸展力を与えて培養する方法を採用する。さらには、顎関節に存在するもう一つの力学的負荷受容細胞である軟骨細胞に着目し、細胞ストレッチシステムで軟骨細胞と骨細胞の間を仲介するシグナル分子が存在するかどうかの検討を行う。シングルセル解析については、下顎頭の細胞を抽出し、chromium controllerと次世代シークセンサーにてRNA sequencingを行う。また、矯正歯科における成長期症例ならびに成人下顎頭変形症例のコーンビームCT画像ならびにマテリアル(患者DNAや血漿)の解析を継続して行い、臨床的な知見を基にモデルマウスから得られたデータの裏付けも行いたいと思っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまで所有していた実験材料を用いたこともあり、一部の予算を執行せずに研究を進める事ができた上に、COVID-19の流行に伴う緊急事態宣言の影響もあり、研究執行が進まない時期があったため、研究を延長せざるを得ない状況であった。 今後は当初の計画を継続する形で、次年度に研究費を使用する予定である。
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