顎関節は両側性の構造をなし、ヒトの関節の中でも最も複雑な動きを示すユニークな関節である。また、顎関節には咬合力などの応力が絶えず加わる部位であり、力学的負荷が下顎頭に与える影響は大きいことが示唆されている。成長期には力学的負荷に対して下顎頭は成長促進を示す一方、成人期には過剰な力学的負荷によって下顎頭・関節窩の退行性の変化を呈する場合もあることから、条件によっては相反する反応を示すとされる。現在、顎関節の力学的負荷応答性メカニズムに関する解析は細胞の動態およびシグナル伝達については不明な点が多く、未だ歯科臨床では力学的負荷が時空間的に顎関節へ与える影響を予測し制御する事は困難である。顎関節への力学的負荷を感知するのは、メカノセンサーを持つ軟骨細胞もしくは骨細胞と考えられるが、それらの細胞が顎関節、特に下顎頭においてどのような機能を持つ不明な点が多い。本研究では、力学的負荷が顎関節に存在する骨細胞、および骨細胞を取り巻くオステオネットワークに与える影響について分子生物学的観点から明らかにし、顎成長・顎関節変形制御に関する知見を獲得し、臨床応用への礎を築く事を目的とする。本年度は、シングルセル解析ならびに空間的トランスクリプトームの検討のため、成獣マウス下顎頭変形モデルならびに成長期モデルとしての幼若マウスの顎関節サンプルを採取し、生細胞採取ならびに凍結切片の作成を試みた。今後、顎関節骨細胞および周囲に存在する骨代謝関連細胞の遺伝子発現ならびにシグナル経路を網羅的に解析したいと考えている。
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