小児歯科の診療現場では、低年齢児や障害児に加え、診療への非協力児など様々な患児を対象としている。彼らは自身の感情やストレス状態の変化を言語化するのが容易ではない。また、一見診療に対して協力状態にある患児でも、内部にストレスを喚起している場合があると報告されている。安全で快適な歯科診療の提供、ならびに質の高い医療を寄与するために、術者は彼らの内的ストレス変動を知り、それぞれの患児に適した対応をとることが望まれる。 本研究では、チェアサイドでの感情変化を可視化し、リアルタイムモニタリングシステムの構築、感情変化を簡便に測定できる装置開発を目的としている。これまで、歯科治療時の感情評価に有用な生理学的指標を明らかとするため、自律神経活動、脳波から得られる感情変化に着目し、その動態を探ってきた。 2020年度に4歳~9歳までの小児を対象としコンポジットレジン修復処置中の自律神経活動と脳波の記録解析を行い、年齢層による比較を行ったところ、自律神経活動解析において、4歳~6歳の年齢層ではラバーダム防湿時に、6歳~9歳においては、浸潤麻酔・ラバーダム防湿・タービンによる窩洞形成時に、ストレスによる交感神経活動の上昇と副交感神経活動の低下が観察された。脳波解析では、6歳~9歳の年齢層において、浸潤麻酔・タービンによる窩洞形成時にβ波の上昇が認められた。これらの結果を2021年度に論文を作成し、国際誌にて報告した。2022年度は昨今の感染症の影響にて被験者の確保が困難であったため、研究に関する情報収集や次年度以降の実験に向けた環境整備を行った。 2023年度は診療室で発生する様々な歯科材料の匂いに対してどのようなストレス反応が起きるのか調査するために、シールドルームでの予備実験を行った。
|