研究課題/領域番号 |
17K17325
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
河野 加奈 岡山大学, 大学病院, 助教 (40780862)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 3D / CT / 軟食 / マウス / 下顎骨 / 形態変化 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、食生活の変化というような後天的因子がどのように顎骨の形態決定に関与するのか?という、顎骨形態決定に関わる遺伝情報のエピジェネティックな制御システムを明らかにすることである。 まずH29年度には、後天的因子が顎骨の形態形成に及ぼす影響を詳細に把握するために、マイクロCTを用いた下顎骨の3次元的な形態解析手法を新たに開発・報告した。 食餌性状を変化させた実験モデルはこれまで広く用いられてきたが、この研究は2次元のレントゲン写真による側面図の線計測および角度測定に基づいており、3次元の変化を詳細に検出することは困難であった。そのため食餌性状の変化に関連した下顎骨の3次元変化を詳細に解析するために、マイクロCTを用いた下顎骨表面形態の解析手法を新たに開発した。 結果として、3次元のうち垂直方向の変化が最も顕著に観察された。軟食群では下顎骨の顕著な上方への変化が観察され、下顎枝高の明らかな減少が観察された。下顎骨の上方変化は下顎角部で最も有意であり、下顎下縁平面角が急峻となった。水平方向の変化としては、筋突起外側の変化量が最も大きく、筋突起の外側表面は軟食群において内向きに大きく変化した。結果、左右の筋突起間の幅径は粉末餌群に置いて有意に減少した。下顎頭の幅径も軟食群において有意に減少した。前後方向の変化としては、下顎角部と下顎枝の前方方向への有意な変位が観察された。 これらの知見より、後天的因子に伴う咀嚼活性の違いが骨表面上の部位特異的応答にどのように影響し、マウス下顎骨の3次元的な成長にどのように影響するのかという定量的所見が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、食生活の変化というような後天的因子がどのように顎骨の形態決定に関与するのか?という、顎骨形態決定に関わる遺伝情報のエピジェネティックな制御システムを明らかにすることである。 顎骨形態決定に関わる遺伝情報のエピジェネティックな制御システムを明らかにするためには、まず後天的因子がどのように顎骨の形態形成に影響しているのかを明らかにする必要がある。よってH29年度には、後天的因子が顎骨の形態形成に及ぼす影響を詳細に把握するために、マイクロCTを用いた下顎骨の3次元的な形態解析手法を新たに開発し、Frontiers in Physiologyにて論文報告した。 これらの知見より、後天的因子に伴う咀嚼活性の違いが骨表面上の部位特異的応答にどのように影響し、マウス下顎骨の3次元的な成長にどのように影響するのかという定量的所見が明らかとなった。 これは、今後顎骨形態決定に関わる遺伝情報のエピジェネティックな制御システムを明らかにしていく上で、非常に重要な基礎的研究となった。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度の段階で、上顎骨においても後天的因子が顎骨の形態形成に及ぼす影響を詳細に把握することが出来ている(第76回日本矯正歯科学会学術大会にて発表)。H30年度には上顎骨においても結果を論文として報告する予定である。 既存研究で、軟食を与えたマウスと硬食を与えたマウスの咬筋のRNAを用いてマイクロアレイを行い、これらの刺激に応答する遺伝子の同定(以後、遺伝子Xと表記)と、同遺伝子のクローニングならびにリコンビナントタンパク質の精製に成功している。これらの遺伝子群の発現領域は、7番染色体の特定領域に集中していることが分かったが、マウス遺伝子のこの部位の領域から転写されるmRNAの情報は未だ無く、そこからクローニングしてきた遺伝子は未知のものであった。また、同部のゲノムをFAIRE法で解析したところ、近接領域のゲノムがクロマチンから遊離していることが確認された。これらの知見から、上記遺伝子が咬筋の性質及び下顎骨の形態形成をコントロールしているのであれば、上記遺伝子のリコンビナントタンパク質の局所または全身投与によって、咬筋の性質及び下顎骨の形態形成を制御できるのではないかと考えられる。 よってH30年度は、in vitroでの実験により粉末餌で飼育したマウスで遺伝子発現様態に変化が見られたMyh1、2、4が、申請者が同定したリコンビナントタンパク質の下流分子であるかどうかを確認するため、筋肉細胞由来細胞株にリコンビナントタンパク質を添加し、Myh遺伝子群の発現様態に変化が生じるかどうかを確認する。次に、マウス咬筋の器官培養を行い、そこに同様にリコンビナントタンパク質を添加し、同様にMyh遺伝子群の発現様態に変化が生じるかどうか調査する。更にその後in vivoの局所投与または全身投与によって、意図的に咬筋の性質及び下顎骨の形態を変化させることができるのかどうかを調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に予定している研究において、筋細胞由来細胞株(L6)を用いて、遺伝子Xリコンビナントタンパク質を添加した後のMyh遺伝子群の遺伝子発現様態変化の観察と下流分子の探索を計画しているが、筋細胞由来細胞株へ添加するリコンビナントタンパク質の最適濃度を解析する際に、リコンビナントタンパク質が大量に必要となる可能性が高く、外部委託を行う必要があると考えられる。これに伴い、当初の予定と比較し次年度の必要経費が多くなることが予測される。 そのため、次年度への予算の繰越しを希望し、上記のような当該年度の助成金使用状況となった。
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