我々は,本研究において歯周病原性菌Porphyromonas属の産生するジペプチジルペプチダーゼ(Dipeptidyl-Peptidase:DPP)に着目し,同菌の病原性に関与するペプチド分解系の全容解明を目的として実験を行った.細菌DPPsは,細胞内膜と外膜間のペリプラズムに局在するペプチダーゼで,オリゴペプチドを分解して細胞内に取込み可能なジペプチドへ変換する酵素である. そこで我々は,KEGG Orthology Database及びExpanded Human Oral Microbiome Databaseの検索結果から,DPP遺伝子が全口腔細菌のうち,Porphyromonas属やPrevotella属を含む嫌気性菌約700菌種に限定的に存在することを明らかにした.これらDPP遺伝子を有する細菌は歯肉縁下プラークの構成細菌である.そのため,歯肉縁下プラークを構成するこれらの菌の存在やその活動度を,ヒト口腔サンプルのDPP活性測定を行うことで評価できると考えた.実際に,ヒト口腔サンプル(唾液・歯肉縁下プラーク)を用いたこれらのペプチダーゼ活性測定を行ったところ,歯周病原性菌の存在有無が予想され,DPP活性測定が歯周病の指標の1つとして活用できることが示唆された.また,マウス実験において,細菌DPP4活性がヒトDPP4阻害剤で阻害され,インクレチンの分解活性を有することを明らかにした. DPP遺伝子保有菌には全身疾患との関連が示唆されるものが多数あるため,本研究成果は,歯周疾患だけでなくこれら全身疾患への疾患予防・治療法確立への将来的な寄与が期待される.今後は,実際の口腔内疾患とDPPの関連性を探索する研究を予定している.
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