矯正歯科臨床において、口呼吸により上顎前突や開咬等の様々な不正咬合か生じるほか、顎顔面骨格の成長にも悪影響を及ぼすことが指摘されている。人間の生理的呼 吸様式は本来鼻呼吸であるが、何らかの原因により鼻閉が生じると正常な鼻呼吸が障害され口呼吸を行う。口呼吸時の問題点として、頭痛、疲労感、睡眠障害、 注意 力の低下により QOL(生活の質)が低下するという報告も散見される。矯正治療を希望する不正咬合患者の中には、鼻閉などにより鼻呼吸が障害され口呼吸 を行う患者も多数見受けられる。口呼吸がもたらす障害として顎顔面の成長発育異常・不正 咬合・口腔乾燥・歯周疾患など口腔内に限局するものや、仕事や学 習における持久力や活動力の低下など認知機能に及ぶものまで様々な事象が指摘されている。本研究は呼吸様式が認知機能にどのような影響を与えるのかを非侵 襲的脳機能計測技術(近赤外分光計測(NIRS)を用いて神経科学的に客観的に解明することを目的とした。通常の鼻呼吸を行う健常者に対して実験的に鼻閉状態を おこし人為的な口呼吸状態を再現した。認知機能を客観的に判断する材料として、作業記憶試験などにも用いられる”Nバック課題”を行った。Nバック課題遂 行時の前頭前野における脳活動状態は、鼻呼吸時の方が口呼吸時よりも高い活動状態を示す傾向が確認された。認知機能において前頭前野が重要な役割を果たすことから、鼻呼吸時の方が口呼吸時よりも高い認知機能を発揮できる可能性が脳活動状態より客観的に示された。この知見を基に生理的な呼吸様式を 獲得することの必要性・重要性を広く社会にアピールすることをが可能となる。
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