骨格筋は可塑性を有し、その表現型や生理機能は様々な環境の変化に適応することが知られている。口腔機能の中心的役割を果たす咀嚼筋も四肢の骨格筋と同様に可塑性を有し、その表現型や生理機能は様々な咬合の状態に適応することが知られている。歯科矯正治療(咬合の改善)により口腔機能を改善する際、この咀嚼筋の適応機構は非常に重要である。これまで研究代表者は、咬合挙上マウス(下顎切歯に咬合挙上板装着 以下BO)による機械的刺激の増大が咬筋の肥大と筋活動の亢進を誘発することを報告してきた。その結果、AktおよびCalcineurinを介したシグナル伝達経路がこの適応機構に関与することを報告したが、未だ不明な点は多い。近年、microRNA調節やエピジェネティクス制御が後天的な顎骨形態変化に関与することが示唆されている。そこで本研究では、咬合挙上モデルマウスを作製し咬筋の適応機構をmicroRNA調節や、エピジェネティクス制御など多角的方面からのアプローチで解明することを目的とした。10週齢のC57BL/6雄性マウスを、対照群(Control n=5)、BO群(n=5)に分け、2週間後に咬筋を摘出して筋重量測定後、BOが咬筋に与える影響を組織学的ならびに生化学・分子生物学的手法を用いて解析した。その結果、BO群では、咬筋の筋線維断面積(CSA)と筋重量の増加を認めた。BO群では、miR-182、miR-206の発現レベルの上昇を認めた。Western blottingの結果より、BO群では筋萎縮因子であるHDAC4、Foxo3aの発現レベルの有意な減少が認められた。以上の結果より、BOによるmiR-182およびmiR-206の発現レベルの上昇がHDAC4、Foxo3aの発現レベルを減少させることによってマウス咬筋筋重量の増加と筋線維の肥大を誘発することが示唆された。
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