シクロホスファミド(CPA)は、アルキル化剤に分類される抗がん剤あるいは免疫抑制剤として使用されている。小児悪性腫瘍に対する大量化学療法は、歯の形成異常や萌出障害といった晩発障害を惹起する。本実験では大量化学療法による歯の晩発障害のうち、歯根形成障害に着目し、CPAが歯根形成を担うHertwig’s上皮鞘 (HERS) に与える影響を明らかにすることを目的として解析を行ってきた。 In vivoにおいて、高濃度CPAを投与した群では、一般的な抗がん剤の副作用である体重減少と脱毛を認めた。しかしながら、歯の萌出や歯冠形態には影響を及ぼさなかった。 しかし、歯根形成については、高濃度群で歯根伸長の停止および根尖孔の早期閉鎖がみられた。In vitroにおいては、CPA濃度依存的に細胞数の減少を認めた。ウエスタンブロットと免疫染色によるタンパク発現の検索においては、control群では、E-cadherinの発現を認めたが、N-cadherinの発現はみられなかった。しかしながら、高濃度刺激群では、E-cadherinの発現の減少およびN-cadherin発現の上昇を認めた。これらのことから、HERSの細胞間接着が低下し、早期にEMT様の現象を誘発しHERSの断片化を引き起こすことで根尖孔の早期閉鎖およびそれに伴う短根形成につながることが示唆された。 つまり、高濃度CPA投与は、根尖孔の早期閉鎖および短根形成を誘発する。また、これらの変化は、EMT様現象の誘導によるHERSの断片化が関与する可能性が示唆された。
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