転写因子Nrf2は細胞の酸化ストレス耐性に関わることが知られている。非ストレス下の細胞ではNrf2は細胞質で分解されて核内に移行できないが、細胞が酸化ストレスなどに曝されるとNrf2の分解が阻害されて活性化し核内に移行する。核内に移行したNrf2は各種炎症性サイトカイン産生を抑制する分子を発現して、抗炎症および抗酸化効果に寄与する。歯周組織において生体防御を最前線で担う歯肉上皮は歯面と緊密に接着することで口腔細菌の生体内への侵入を物理的に防ぐとともに、歯周局所に遊走してきた活性化好中球が産生するスーパーオキシドが各種活性酸素に変換され、殺菌効果を示す。しかし、過剰な活性酸素は細胞障害を惹き起こす酸化ストレスとなるため、酸化-抗酸化のバランスはNrf2によって制御されている。しかし、歯肉上皮におけるNrf2の機能については十分に解明されていない。 そこで今年度は、酸化ストレスとして過酸化水素を添加した歯肉上皮細胞と非添加群のmRNAを抽出し、マイクロアレイで発現変動遺伝子を調べた。その結果、変動比2倍以上上昇した遺伝子が976、反対に減少した遺伝子が989であった。これらをGO解析にかけたところ、 変動比3倍以上で発現上昇した遺伝子が37、発現減少した遺伝子が131であった。また、発現変動遺伝子のパスウェイ解析を行った。さらに、歯肉上皮細胞間の細胞接着が破綻することで歯周病原細菌の体内への侵入が成立するため、酸化ストレスが細胞接着分子のE-cadherinに及ぼす影響を調べた。具体的には各種濃度の過酸化水素で刺激した歯肉上皮細胞を抗E-cadherin抗体で免疫蛍光染色し、蛍光顕微鏡にて観察した。
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