本研究は,Capnocytophaga ochracea のバイオフィルム形成にIX型分泌機構(T9SS)により分泌されるタンパク質(T9SS 積荷タンパク質)が関与するという仮説のもと行ってきた。本年は,T9SS 積荷タンパク質はC. ochracea バイオフィルム中の菌体外重合体物質(EPS)の一部として本菌のバイオフィルム成熟に関与するとの考えのもとで研究を進めた。まず,1.5 M NaCl の処理によりC. ochracea 野生株とT9SS 構成タンパク質をコードする遺伝子gldK の欠失株(ΔgldK)のEPS を抽出した。また,それぞれのバイオフィルム中のタンパク質も抽出を行った。その後,ラベルフリー法により各サンプル中のタンパク質の同定,野生株とΔgldK 間のタンパク質の比較定量を行った。その結果,EPS には約874種類,バイオフィルム中には約1357種類のタンパク質が認められた。その中には,バイオインフォマティクス解析の結果からC. ochracea のT9SS 構成タンパク質と推測されるGldK,GldL,GldM,GldN,OmpA が含まれていた。また,T9SS 積荷タンパク質と推測されるSprB,Hyalin も認められた。今回は1回分の測定であるため,検出強度差について統計的有意性の評価はできていない。ただ,野生株と比較し,ΔgldK においてEPS,バイオフィルム中のT9SS 構成タンパク質の発現量は大幅に低下していた。また,T9SS 積荷タンパク質の発現量は,ΔgldK において,EPS 中では低下,バイオフィルム中では上昇していた。以上の結果に基づき,Hyalin をコードする遺伝子の欠失株を作製し,T9SS 積荷タンパク質のC. ochracea バイオフィルム形成への影響を明らかにする予定である。
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