研究課題/領域番号 |
17K17362
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研究機関 | 松本歯科大学 |
研究代表者 |
石田 直之 松本歯科大学, 歯学部, 助教 (50757622)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / 歯周病 / 腸内細菌 / Porphyromonas gingivalis / Lipopolysaccharide / Blood Brain Barrier |
研究実績の概要 |
平成29年度は腸内細菌や口腔内細菌等の菌体内毒素であるLipopolysaccharide(LPS)が血流を介して脳に到達し、さらに脳内に血液脳関門(BBB)を通過して侵入することが可能かを検討する実験を行った。 本研究は、特に歯周病により口腔内で増殖した歯周病原細菌であるPorphyromonas gingivalis (P. gingivalis)のLPSが脳内へ侵入し、脳内の炎症を惹起することでアルツハイマー病の病態を悪化させるという仮説から起案された物であるため、P. gingivalisのLPSを用いた。 P. gingivalis LPSを脳血管内皮細胞を隔てて血管内側と脳側に分けられたBBB in vitroモデルの血管内側の細胞培養液に1.0, 10.0 μg/mlの各濃度で添加した。コントロール群としてsodium fluorescein (Na-F)を使用した。一定時間後脳側内の細胞培養液を回収し、細胞培養液中に含まれるLPS濃度を測定した。 結果、コントロールのNa-Fと比較して、P. gingivalis LPSを投与した群では1.0, 10.0 μg/mlの両濃度ともBBBの物質透過性が上昇し、実際にLPSがBBBを通過していることが判明した。 また、平成29年度に開催された日本歯周病学会60周年記念京都大会では、口腔内細菌と腸内細菌との関係性から考える歯周病と全身疾患や、腸から口腔細菌が体内に侵入するメカニズムといった本研究と関連性の高い講演が行われた。この学術大会で発表された研究内容を参考にし、今後はLPSがBBB機能を低下させる詳細なメカニズムの解明や、以前から関連性が高いと言われる糖尿病、歯周病、認知症の3疾患の関連についても研究を進めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのBBB in vitroモデルを使用した実験により、P. gingivalis LPSをBBBを形成している脳血管内皮細胞に作用させると、BBBの物質透過性が上昇し、実際にLPSがBBBを通過していることが判明した。 この結果より、歯周病によって口腔内で増殖したP. gingivalisが腸内に流入し、腸から血液中にLPSが漏出することで血流を介してLPSが脳に到達する。さらに、BBBを通過して脳内へ侵入し、脳内の炎症を惹起することでアルツハイマー病の病態を悪化させるという当初の仮説をより有力な物とすることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
BBB in vitroモデルにP. gingivalis LPSを作用させた実験により、P. gingivalis LPSはBBBの機能を低下させ、脳内に侵入して脳内の炎症を惹起する可能性があるが、P. gingivalisが腸に侵入した際、その他の腸内細菌叢に影響を与えていることが考えられる。 影響を受けた腸内細菌、あるいはそのLPSはP. gingivalisと同様に血管内に侵入している可能性がある。これらの細菌のLPSもBBBの機能に影響を与えていることが考えられるため、今後代表的な腸内細菌のLPSを使用した同様の実験を行うことを計画している。 また、P. gingivalisのLPSを作用させた脳血管内皮細胞の遺伝子を解析することで、BBBで重要な機能を持つ細胞間のタイトジャンクションに影響を与えたメカニズムを解明するための研究を行う予定である。 以上の研究結果がまとまり次第、研究成果を日本歯周病学会、日本認知症学会、American Academy of Periodontology (AAP)等の学術大会で発表予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は申請時に計画を行った研究内容が順調に履行され、当初購入予定であった一部の物品を未購入のまま目標とする研究結果を発表するに至ったため、次年度使用額が発生した。 発生した次年度使用額は、平成29年度までの研究をさらに発展させる研究を進めるために必要な消耗品や実験機器の購入に使用する予定である。
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