最終年度である本年は、前年度までに採取した健常者での測定データを検討し、在宅療養中の脳血管疾患後遺症患者に対し測定を行った。対象者は84歳男性、原疾患は脳梗塞、脳出血である。以下の2条件においてfNIRS装置Spectratech OEG-16APDを用いて前額部の脳血流測定を行い、口腔周囲運動中の視覚情報の有無が脳機能に及ぼす影響を測定した。条件1) 口頭指示のみで舌運動課題を実施(舌を挺出し左右口角に達するように繰り返し動かす)、条件2) 他者の舌運動映像を視聴しながらそれを模倣し舌運動課題(条件1と同様)を実施、である。被験者から得られた脳酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)変化データは、BRain Analyzer ver.2.0(B.R.system社製)を用いて加算平均を行い、各課題条件におけるOxy-Hb変化量比較測定をt検定にて行った。 安静時と課題実施時の比較では、測定を行った16チャンネル中、体動によるノイズ除去のため両側の8チャンネルを除外した中央部8チャンネル中、条件1においては7チャンネル、条件2では全チャンネルにおいて増大を認めた。条件1と条件2を比較したところ、他者の映像を模倣し課題を行った条件2において全チャンネルにおいて有意なOxy-Hbの増大を認めた。 本研究において、同運動課題を施行する場合において、口頭指示のみで行う場合に比べ映像を提示され模倣しながら施行する場合において、より効果的に脳の活性が得られた。昨年度測定した際、課題映像視聴のみでは実際に運動課題を施行した条件ほどの脳の活性が得られなかったため、映像視聴に加え実際に課題を施行することの重要性が伺われた。 測定を行っている時間内における被験者の集中度も映像提示時の方が継続されている印象があり、短時間での効果的な訓練法として課題映像を利用して行う手技の利用は有効であると考えられた。
|