本研究は、東日本大震災により自宅を失い、応急仮設住宅に入居した循環器疾患をもつ人の身体の認識を構造化することを目的とした。研究者が東日本大震災後の応急仮設住宅住民を対象に実施した健康支援活動記録(健康相談票、フィールドノート)から、同意を得られた6名を対象に質的記述的分析を行った。また、東日本大震災から9年が経過しており、健康支援活動記録から得られなかったデータの補足のため、新たに、現在、応急仮設住宅に暮らす循環器疾患をもつ人(8名)に半構造的インタビューを実施した。 災害後の応急仮設住宅に暮らす循環器疾患をもつ人の身体の認識にはパターンがあり、災害後も身体の認識を継続できたパターンと、災害後に身体の認識が困難となったパターンがあった。災害後の身体認識には、災害後の時間経過に伴う個々の生活上の問題等の関心事やそれに伴う精神状態のフェーズにより変化が生じていた。災害前からセルフモニタリングしていた症状・徴候は災害後の身体の変化を捉える基盤となっていたが、災害後に新たに生じた症状・徴候は、“いつもとは違う”身体の変化として捉えながらも、自身だけではその変化の意味を解釈できず、漠然とした表現として現れ、病状の悪化につながり医療介入が必要となっていた。また、生活基盤の安定、気持ちのゆとり、今後の生活の見通しが立つようになると、身体症状・徴候への関心が高まり、対処行動が強化されていた。さらに、災害後の身体の認識には、災害前の身体認識、被災体験、災害後の心理状況、家族などの周囲の人々の関係性の変化により影響を受けることが明らかになった。
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