本研究は、各道徳的発達段階にある看護師の看護実践における思考、判断の共通性、相違性を明らかにし、看護師の道徳的発達段階と看護実践との関連について検討することを目的としている。 北海道および東北にある500床以上の病院に勤務する中堅看護師335名を対象に、Kohlberg理論に基づいた「DIT(Defining Issues Test)日本版―青年期における道徳判断の発達測定のための質問紙」による道徳的発達段階の調査および、本研究者が倫理的課題を内在させて作成した「日々の看護実践において認識している倫理的課題と対応についての質問紙」(自由記載)による看護師の倫理的課題の捉え方や看護実践における思考・判断の調査を行った。 335名中71名の回答が得られ(回収率21%)有効回答は52名であった(有効回答率16%)。道徳的発達段階は第3段階が16名、第4段階は36名であり、性別、年齢、学歴等の基礎データとの相関はなかった。第3段階のケースは事例の看護への疑問を持ち、抑制を最小限にする工夫を考えていた。看護師の視点から事例を捉えるケースが多く、せん妄の要因となる日中の活動状況や検査データについて追加情報を求め、具体的な対処を考える傾向にあった。第4段階のケースは看護の基準である安全・安楽・自律・自立について考え、患者の思いに寄り添い尊重しながら看護を行うことを考えていた。事例理解のため様々な追加情報を求めており思考の広がりがあった。さらに事例に含まれる専門的価値と患者の思いとの間に生じる価値の対立を認識しているケースもあった。上記結果について、第4段階で得点が極めて高いケースは他者の立場に立つという観点、事例を理解するための思考の広がり、倫理的課題への気づきがあった。道徳的発達段階は役割取得能力、認知能力との関連が深く、本研究の結果、道徳的発達段階と看護実践との関連が示唆された。
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