角膜移植手術は亡くなったドナーから提供される角膜を用いる治療である。移植後には感染症や拒絶反応などの合併症を防ぐための治療管理に取り組まなければならない。移植手術によって視機能が回復する者は多いものの、合併症や視力の低下に伴い、再移植が検討されることは珍しくない。移植回数が増えるほど合併症のリスクが高まり、長期的な治療に対する心理的負担も大きくなる。どの程度まで視機能が回復すればよいのかということも、患者の価値観やライフスタイルによって異なることから、治療の選択は難しく、意思決定のためにはパーソナライズされた支援が必要となる。しかし、時間的制約、患者がもちあわせる知識の個人差もあり、移植に向けた意思決定を含む治療方針の決定にあたっては、医療者と患者は十分なコミュニケーションがとれているとはいいがたい。そこで本研究では医療者が短時間で患者の状態やQOL (Quality of life) がどのレベルにあるのかを把握し、患者支援につなげるためのツールとしてQOL評価尺度の開発を行った。 調査は患者会会員を対象とした質問紙調査で行い、角膜移植レシピエント106名の回答を分析対象とした。患者のQOLには視機能と家族や医療従事者からの理解を得られているという認識が影響していることが明らかとなった。被受容感がQOLを高めるという結果からは、医療者の共感的関わりの重要性が示唆された。尺度のCronbach's alpha係数は0.8を上回り、外的基準尺度との相関も確認できたことから一定の信頼性と妥当性を確保できたといえる。本尺度は患者のQOL評価を容易にするだけでなく、患者の視点から医療サービスのパフォーマンスを評価するための指標として活用されることが期待できる。
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