本研究の目的は緩和ケアを受ける患者とその家族が、死が迫る状況のなかで自分の気持ちを伝え合うことを支える看護ケアの具体的内容を明らかにすることである。本年度は、これまでの研究をふまえて作成したインタビューガイドをもとに、緩和ケア病棟に勤務する看護師への半構造化面接調査を実施した。 インタビュー対象者は、緩和ケア病棟で勤務する看護師10名で、インタビューの内容は「印象に残る患者の事例」をもとに、「患者家族がどのようにメッセージを伝え合ったか」、「看護師が実施したケアの具体的内容」、「そのケアを実施しようと思ったきっかけや理由」などについて質問した。 インタビューの内容を逐語録に起こして質的帰納的に分析した結果、看護師は緩和ケア病棟に患者が入院した当初から、患者・家族が抱えている気がかりや苦悩をさりげない日常的な会話の中から積極的に聴くようにしていた。そして日々刻々と変化する患者の病態を細やかに観察しながら予後予測を正確に行い、可能な限り患者とその家族が抱えている気持ちを直接伝えられるよう、患者本人のコミュニケーション能力が維持されるうちにタイミングを計って関わっていた。他方、患者家族が直接コミュニケーションをとりにくい状況がある場合には、本人や家族のメッセージを代弁したり、相手への手紙を残す手助けをして、両者が思いを伝えあうことを促していた。 さらに、患者・家族からの言語的な表出がみられない場合にも、病室内の患者・家族の関係性に看護師が違和感を覚えたときには、本来の家族のあり様を探り少しでもその姿に近づけるように関わりをもつこともあった。看護師は普段から何気なく声をかける機会を多くしたり、相手の好きなことをする時間を取り入れたりして関係性を築いたうえで、病を患う前の様子について尋ねたりしてその人らしさを探求し続け、最期まで自分らしく家族と過ごせるよう支えていた。
|