研究実績の概要 |
本研究では授乳姿勢を保持する際の身体的な負担について、超音波エラストグラフィ(RTE: Real-time Tissue Elastography)を用いて、非妊娠時の成人女性の筋硬度の変化を調査した。RTEは非侵襲的に生体臓器や病変の硬さを測定する診断法であり、骨格筋や軟部組織などの硬さを評価方法として、近年スポーツ分野で着目されている。筋硬度計も非侵襲的で簡便であり、筋活動量との比例関係(有馬ら,1997)がみられ、筋疲労や筋緊張を原因とした痛みの研究に使用されている。しかし、本研究では、筋硬度計で計測した筋肉の硬度と母親の疲労感や疼痛部位が必ずしも一致せず、計測できる範囲にも限界がある可能性が示された。また、授乳姿勢の保持により僧帽筋や脊柱起立筋への負荷が認められ、骨格筋には個人差があり、慎重に測定部位を選定する必要がある。今回、RTEを用いることでより的確にかつ視覚的に筋層への負担を明らかにでき、かつ、筋硬度計では計測の難しかった深部層の筋層の硬度評価や、画像による経時的な変化の評価の可能性が示唆された。調査の結果、安静を一定時間保持した後に座位または側臥位での授乳姿勢(横抱き)を保持した場合の左右の僧帽筋・脊柱起立筋は、授乳時の児頭の向きや負荷をかける前の対象者の特性が影響していることが明らかとなった。また、負荷の前後で筋硬度の変化に差がみられる有意義な結果が得られた。本研究結果から今後の課題として2点が明らかとなった。産後の授乳状況は児の出生体重や母乳の分泌量、授乳時間や時間帯など多くの影響因子が多く、褥婦の負担を可能な限り軽減した実施方法にはさらに検討が必要であること、また、測定者の手技のよる影響も強いため、同一の測定者が継続して計測していくことや手技の維持・向上の必要性が示唆された。
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