研究課題
本研究の目的はウェアラブルセンサを用いた非侵襲的な呼吸計測システムを利用して、日常生活動作における労作時低酸素や運動耐容能と関連する呼吸パターンを検討することである。ヒトの呼吸では胸郭が周期的に拡張するため臨床場面ではベッドサイドでの呼吸数の数え上げに利用されている。これまで本研究では、胸郭運動を体幹に装着したストレッチセンサの伸縮により計測し、呼吸数を検出する試みを行なった。上部胸郭にセンサを装着することで代表的な日常生活動作である歩行、着座および椅子立ち上がりを含む動作時にも比較的高い精度で呼吸数が計測することができた。平成29年度の成果としては、リハビリ職種へのヒアリングや臨床で呼吸器疾患を対象に利用が広がっている簡便な運動耐容能評価の6分間歩行試験を応用場面と定め、歩行及び着座と椅子立ち上がりを含む動作時の呼吸数検出精度の検証を行なった。呼吸の周期性に、過去の振幅や周期の情報を加えた計算方法により上記の体動時にも高い精度で呼吸数が検出できることを確認した。上部胸郭と下部胸郭の二箇所で検証を行ない、およそ同等の精度を認めた。姿勢変化の影響を考慮し、上部胸郭が主な計測対象とすべきであると結論付けた。上記の成果は、第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会にて口頭発表を行ない、具体的な臨床応用に必要な要素や医療職者との議論を行なった。次年度は慢性閉塞性肺疾患の患者が行なう6分間歩行試験において正確に呼吸が計測できるかを検討していく。また本年度の成果については、国際学会への報告および論文化を目指して作業を進めていく予定である。慢性閉塞性肺疾患患者での臨床利用を進めていくために県内のメーカーと共同で試作品の製作にも取り組んでいる。
2: おおむね順調に進展している
申請書の計画では、健常者の日常生活動作を対象に体動中の呼吸計測の妥当性検証および装具イメージの検討を挙げていた。対象動作を臨床経験を持つリハビリ職種との議論や現在、臨床応用が広がっている運動耐容能試験である6分間歩行試験に絞り、異なる速度帯および着座、椅子立ち上がりの動作における呼吸数検出の精度検証を行なった。波形の周波数解析により想定範囲の動作では呼吸の周期との差が大きいことから、基本となる周期性を利用した差分アルゴリズムによりFLOWセンサと比較して健常者において高い精度で呼吸数が検出することができた。装具イメージにかかる装着部位については、上部胸郭(胸部)と下部胸郭(腹部)のセンサ精度を比較し、同等の精度を認めたため姿勢変化の影響を受けにくい上部胸郭を主な計測対象とすべきと結論付けた。更に、文献検討から本邦の慢性閉塞性肺疾患の患者が臨床で利用するために必要な仕様やデバイスの形状について検討を行い、県内メーカーと共同で試作品の開発を行なった。次年度の臨床研究に進めるために、医療機関への説明を行い複数の施設から内諾を得ており所属機関での倫理審査を進めている。以上のことからおおむね順調に進展していると評価した。
次年度以降は慢性閉塞性肺疾患患者での呼吸計測の精度検証を進めていく。年度の前半は、医療機関との臨床研究に向けた調整および倫理審査などの作業を平行して進める。患者群での精度は未検証であるため、平成29年度の技術をベースに評価を行い、適宜システムを見直して行く予定である。
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