研究課題/領域番号 |
17K17504
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
大坂 京子 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学系), 講師 (30553490)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 認知症高齢者 / ロボットセラピー / 介在者 |
研究実績の概要 |
認知症高齢者施設であるA施設に入所もしくは通所している認知症高齢者で会話能力が比較的保たれ,自力で歩行できる4名を対象者としてプレテストを実施した.ロボットセラピーおよびアニマルセラピー実施時の心拍変動解析を測定した.また,参加観察を行い,対象者,介在者(看護師もしくは介護士),ロボットもしくは犬との相互関係の作用を記録した. 本年度は参加観察によって得た,対象者,介在者,ロボットの3者の相互作用を中心に明らかにした.ロボットはロボット介護機器開発・導入促進事業(日本医療研究開発機構; 2016)が実証調査候補ロボットに選定した(ピップRT株式会社;いっしょに笑おううなずきかぼちゃん)ものを使用した.あらかじめロボットに備えられている機能は対話(非相互対話),歌唱,首の前後屈運動,ジャイロセンサー(傾き認識),手・足・頭に入った触知センサである.また,双方向性の対話を可能にするため遠隔制御の小型スピーカー「Pechat」(博報堂)をロボットの胸元に装着した. かぼちゃんとPechatを使用した場合,対象者のロボットに対して【関心】【感心】【驚き】を示し,【恐怖】を感じることもあった.また,【触れる】【歌う】【質問】【返答】【確認】によって相互関係があった. 介在者は対象者に対して【説明】し,【会話への共感】を行い【促し】たり,ロボットが発した【ロボットの発話の反復】により,対象者が理解することを支援することであった.また,ロボットに対し介在者は【通常の操作】を行い【予期しないロボットの不具合への対応】を行うことで,ロボットと対象者の相互交流を促進する役割を担うことが明らかになった.高齢者コミュニケーションロボットを開発する際には,効果的な会話のために仲介者の役割が重要であり,課題の明確化と改善によって他の医療提供者にも有用であると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初計画のとおり,プレテストとしてロボットセラピーとアニマルセラピー実施時の参加観察と生理学的データの計測を行った.協力施設ではすでにアニマルセラピーを実施しているため,データを得るにあたり,ロボットセラピーとアニマルセラピーの基本的条件が同じになるように調整を行うとともにロボット操作の習熟を行った. 生理学的指標として心拍変動解析,唾液中αアミラーゼを測定した.心拍変動解析装置は2秒毎に計測できるものを借用することができたため,計画していた5分毎に計測するものよりも,リアルタイムでLF値,HF値(副交感神経活動の指標)とその比であるLF/HF(交 感神経活動の指標)を解析できた.唾液中αアミラーゼを採取し,被験者のストレスの変化を測定したが,高齢者は唾液量が少なく測定値が高く出たり,複数回の測定では値にばらつきがあった.今後,正確な計測値が得られるよう,条件を整える.加速度センサとしてアクチグラフを用いる予定であったが,高齢者に腕時計型のセンサを着用してもらったところ,外したり,自分のものではないと頻回に訴えがあったため測定が困難であった.今後,条件が整えば使用するが,対象者の不安や不快感が強ければ使用しないことも考える. 参加観察を行い,センサ類だけでは得られない行動評価を行った.介在者は対象者に対して【説明】し,【会話への共感】を行い【促し】たり,ロボットが発した【ロボットの発話の反復】により,対象者が理解することを支援することであった.また,ロボットに対し介在者は【通常の操作】を行い【予期しないロボットの不具合への対応】を行うことで,ロボットと対象者の相互交流を促進する役割を担うことが明らかになった. 介在者となる看護師・介護士の行動観察とインタビューを行う予定であったが,実施できていない.参加観察により得られたデータをもとにインタビューガイドを作成中である.
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今後の研究の推進方策 |
本年はプレテストを行い,おおむね研究計画通りに進行している.プレテストで得られたデータや修正点を勘案し,1年の育児休暇を取得後に研究を再開する予定である. 研究を進めるにあたり,ロボットの使用に際して認知症高齢者および介在者となる看護師・介護士に危険がないか,倫理的に問題がないか,また,使用するロボットの形態と機能が研究目的に合ったものかについても再検討する.プレテストでは生理学的指標をすべての条件を満たして測定することは困難であった.そのため,研究協力者に協力を仰ぐとと共に,無理にすべての指標を採取せず,被験者数を増やすことで補完する.生理学的指標と行動観察を行ったデータを合せて分析を行い,ロボットセラピーおよびアニマルセラピー実施時の認知症高齢者への効果を比較検証する. また,参加観察で得られたデータをもとに,介在者である看護師・介護士にインタビューを行う. インタビューにはロボットセラピー実施時の介在者の言動を参加観察により記録した物を使用する.記録したデータをもとにインタビューガイドを作成する.得られたデータはコード化し,帰納的に分析を行う.インタビューの結果からロボットに対する介在者の意識を明らかにするためのアンケートを作成し,ロボットに対する介在者の意識を明らかにする.アンケートは対象施設の職員100 名を調査対象にして行う.すべての研究結果からロボットセラピープログラム(Robot Therapy Programe: RoboTP)の原案の作成を行い,専門家の意見を聞きながらRoboTRの実施と評価, および改良を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はプレテストのため,ロボットは所有していたものを使用した.ロボットの開発は年々進み,新たな機能を具備したものが開発されているため,プレテストの結果を踏まえてどのロボットが本研究に適しているかを考慮し,新しいものを購入予定である.旅費等は研究者の妊娠のため,国際学会等の遠方への移動が困難であったが,研究再開時には積極的に学会に参加し新しい知見を得たり発表を行う予定である.
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