研究課題/領域番号 |
17K17522
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研究機関 | 聖隷クリストファー大学 |
研究代表者 |
矢部 広樹 聖隷クリストファー大学, リハビリテーション学部, 助教 (40780664)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 腹膜透析 / 高齢者 / 認知機能 / 身体機能 |
研究実績の概要 |
腹膜透析は心循環器系等の身体への負担が少ないことや、在宅生活を継続しながら療養が可能という特徴から、高齢者に適した治療であると提言されている。しかしながら、腹膜透析は腹膜透析デバイスの使用や、カテーテル出口の処置等の管理が必要である。そのためADLの介助量増加や身体機能の低下、認知機能の低下は、腹膜透析の適正管理の障害を通じて、有害事象の発生に影響する可能性がある。一方で、腹膜透析が比較的若い中年世代に対する治療方法として始まったという歴史的な経緯から、高齢の腹膜透析患者における腹膜透析関連の有害事象の因子は、十分に検討されていない。そこで本研究の目的は、高齢の腹膜透析患者における認知機能や身体機能を評価し、その後前向きに観察することで、有害事象発生の要因を認知機能や身体機能の観点から検討することである。平成29年度は、研究協力施設である名古屋共立病院の腹膜透析外来に通院中の、65歳以上の患者をリクルートし、評価を実施することを目的とした。評価は腹膜透析外来にて半年に一回定期的に実施される腹膜機能検査時に、リハビリテーション課にて担当の理学療法士と作業療法士が評価を実施し、評価項目は、身体機能として膝伸展筋力、握力、6分間歩行距離、10m歩行速度、SPPBを、認知機能としてMMSEとMoca-Jを、その他血管機能(ABI、PWV)、ADL(FIM)を測定した。また臨床検査値として、腹膜平衡機能試験と24時間蓄尿検査による残存腎機能、腹膜機能、また各種採血データより貧血や栄養状態を測定した。現在は36名を対象に評価を実施し、その後の定期的なフォローと共に、有害事象の観察を継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
65歳以上のPD患者36名(年齢74.7±6歳、男性25名、女性16名、BMI22.6±2.8kg/m2)を対象としてリクルートした。身体機能の測定結果として、膝伸展筋力は36.2±9.5%、握力は23.7±7.3kg、6分間歩行距離は338.4±113.3m、10m歩行速度は1.1±0.3m/s、SPPBは10±2.6点であった。認知機能はMMSEが26.1±4.6点、Moca-Jが21.3±3.7点であった。その他、血管機能としてABIは1.1±0.1、PWV2034.2±398.9、ADLとしてFIMの合計点は123.2±5.6点であった。測定結果の特徴として、対象の多くはADLが自立しているものの、身体機能が低下していることが示された。また軽度認知症の指標であるMoca-Jの結果、カットオフ値を下回る患者は全体の85%であり、多くの対象で認知機能が低下していることが示された。その他、腹膜機能はクレアチニンクリアランスが25.8±10.7、Kt/Vが0.2±0.1であった。残存腎機能として、クレアチニンクリアランスが50.2±39.9、Kt/Vが0.1±0.1であった。採血結果では、貧血の指標であるHbが11.4±1.1mg/dl、栄養状態の指標であるAlbが3.1±0.5mg/dlであった。現在、上記のデータ解析を進めながら、各対象を前向きに観察中である。
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今後の研究の推進方策 |
リクルートした対象の有害事象の発生(出口部感染、腹膜炎、急性疾患への罹患と入院、転倒、腹膜透析離脱、死亡)について、定期的な外来診療から前向きに観察し、上記の測定項目と有害事象の発生の関連について検討する。また各種測定は半年ごとに継続し、身体機能、認知機能の推移についても検討すると同時に、有害事象の発生との関連も検討する。また新たな65歳以上の腹膜透析患者については、適宜リクルートを進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究データの測定と研究の打ち合わせが、Web会議の利用等により当初の計画よりも少なく、また年度末の打ち合わせが次年度へと繰り越されたため、次年度使用額が生じた。次年度の研究データ測定及び研究打ち合わせに使用する計画である。
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