研究課題/領域番号 |
17K17556
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井上 貴雄 北海道大学, 保健科学研究院, 助教 (40779427)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 認知機能 / 統合失調症 / 事象関連電位 / 神経可塑桂 / リハビリテーション |
研究実績の概要 |
統合失調症の認知機能障害の治療法として認知矯正療法が普及している。しかし神経活動の変化に対する効果は解明されていない。脳波の一種である事象関連電位に関して統合失調症患者ではOddball課題遂行時時のP300振幅が減弱することなどが報告されている。今回、認知矯正療法が統合失調症患者の神経活動に与える影響を脳波を用いて検討した。 統合失調症患者と診断され、研究の参加に対して同意が得られた患者を対象(認知矯正療法介入群15例、対照群12例)とした。認知矯正療法にはNEARを用い、対照群には作業療法を提供した。介入前後で事象関連電位、神経心理検査などの評価を行った。脳波は頭皮上7部位から導出し、選択的注意課題であるAuditory Oddball課題と作業記憶課題であるSternberg課題を用いて事象関連電位を導出した。 介入前の両群において年齢、性別比、罹病期間、抗精神病薬の服薬量、神経心理学検査成績に有意な差は認められなかった。介入前後において両郡の神経心理検査を比較したところ全体的な認知機能を指標であるComposite scoreの効果量は⊿=0.60であった。他方でOddball課題時のP3b成分やP3a成分、Sternberg課題時の後期陽性成分などの事象関連電位については有意な変化は認められなかった。またSternberg課題時の神経同期についても介入前後では変化が見られなかった。上記より我々のNEARは臨床的には先行研究と同様の効果を示したが、より細分化された認知処理に寄与する神経活動には変化をもたらさなかった。このことは我々のNEARの効果発現において、bottom-up的な機序よりもtop-down的な機序がより強く影響した可能性を示していると思われる。今後は聴知覚訓練などのよりbottom-up的な訓練との組み合わせについて、更に検討を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの取り組みについて一度成果をまとめた。想定していたような結果が得られなかったが、他の先行研究で示された板可能性とも一致することが判明した。 この点については現在論文を執筆中で2020年度中のアクセプトを目指している。 また、ここまでの成果から現在多く実践されている認知リハビリテーションの方法では脳の神経活動には大きな影響を与えない可能性が示唆され、この点にも焦点をあてたリハビリテーション介入を検討・開発される必要があると考えた。 そこで現在は聴知覚訓練を用いた介入、あるいは音楽聴取後に期待される認知機能の発揮性を高める介入方法を付加した認知リハビリテーション介入方法が神経活動にどのような影響をもたらすか検討しはじめている。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの成果をまとめている最中であるため、2020年度中に論文が採択されるよう執筆活動と投稿作業を進める。また時勢的に可能であれば9月の国際学会で成果を発表予定である。 また上記と並行して、より認知機能駆動に関する神経活動に変化を生じさせられるようなリハビリテーション介入方法の検討を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は予定していた国際学会への参加・発表が見送られたこと、予定していたよりも論文執筆作業が停滞したことが理由で英文校正や投稿にかかる費用の支出が新年度に回ってしまった。そのため多くの経費を新年度に持ち越すことになった。新年度には論文執筆2本と国際学会での発表を2回などを控えているため、予定通りに直接経費を使用する予定である。
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