研究課題/領域番号 |
17K17558
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大庭 賢二 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 特任助教 (20759576)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | HPV / 発がん初期 / 細胞競合 / 感染防御・制御 / 細胞間相互作用 |
研究実績の概要 |
研究計画に基づいた解析によって、以下に示す十分な結果が得られた。 MDCK細胞を用いたテトラサイクリン誘導性HPV E6/E7遺伝子安定発現細胞(疑似感染細胞)と合わせて、ヒト乳腺上皮MCF10A細胞を用いたテトラサイクリン誘導性HPV E6/E7遺伝子安定発現MCF10A細胞を樹立した。このHPV疑似感染細胞と正常上皮細胞を1:50の割合で播種し、単一細胞層を形成させた後にテトラサイクリン刺激を行い、経時的に共焦点顕微鏡で観察した。すると刺激から約10時間以降から感染細胞と正常細胞間での細胞競合によってHPV疑似感染細胞に細胞死が誘導されることが確認された。この現象は疑似感染細胞の単一培養では誘導されないことから、細胞非自律的に誘導されていた。統計的な解析を行うと正常細胞との細胞競合によってHPV感染細胞において30-40%の細胞死の亢進が確認された。 この細胞死はE7発現細胞では殆ど認められず、E6発現細胞またはE6/E7共発現細胞で確認されることから、E6遺伝子の発現によって生じる細胞の何らかの変化を正常細胞が認識することによって、E6発現細胞に細胞死が誘導されていることを示唆している。また、CreERT組換酵素によってHPV E6/E7の発現が制御できるMCF10A細胞を用いた3次元培養でも同様の傾向を示した。 この細胞死はCaspase3陽性であるため、正常細胞との細胞競合によって細胞非自律的にHPV感染細胞にアポトーシスが誘導され、正常細胞層から排除しされていることが示された。 in vitroでHPV感染初期に細胞競合によって感染細胞が排除されていることが示唆されたことから、実験計画を前倒ししてin vivoで解析を行うためのモデルマウス構築を開始させた。 現在、ヒト上皮初代培養細胞を用いた系での解析・モデルマウスの構築と共に、詳細な分子機構の解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書に示した実施計画に即して、1.ヒト上皮細胞MCF10Aを用いたテトラサイクリン誘導性HPV疑似感染細胞の樹立、2.MDCKならびに樹立したMCF10A細胞をもちいたHPV感染細胞に対する細胞競合の有無の解析、3.HPV感染細胞に対する細胞競合の経時的な観察、4.細胞競合によって誘導される細胞死率の算出、5.CreERT組換酵素によってHPV遺伝子の発現制御が可能なMCF10A細胞を用いた3次元培養系での解析を達成し、十分かつ良好な実験結果を得ている。 ヒト初代培養細胞を用いた系での解析も計画し実行していたが、不死化細胞の樹立後にモデル細胞を構築しなければならないために時間を要してしまった。その結果、現在も解析を継続中である。 当該年度中に初代培養細胞系の樹立・解析に時間を要することが判明したことから、既に樹立したモデル細胞をもちいた分子機構の解析を次年度の計画から前倒しして開始するすることで対応した。また、HPV感染細胞に対する細胞競合現象がin vitroで確認されたので、実験計画を前倒ししてin vivoで解析するためのモデルマウス構築を開始した。 したがって全体の研究計画としての遅延は殆ど発生していないことから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度からの継続として、ヒト初代培養細胞を用いて作製したHPV疑似感染細胞競合モデルを用いた解析を完了させる。 また申請時の実験計画にしたがって、3種のスクリーニングシステム(1.RNAシークエンス解析、2. 1細胞質量分析システムを用いた細胞内分子変化の解析、3.shRNAs/CRISPR-Cas9ライブラリを用いたランダムスクリーニング)を用て、正常細胞による感染細胞に対する細胞競合の詳細な分子機構を解明していく。ただし、予算上の都合といったことからshRNA/CRISPR-Cas9ライブラリを用いた解析が困難になる可能性も考えられる。そこで、1. RNAシークエンス解析、2. 1細胞質量分析システムを用いた解析を優先して行うことで詳細な分子機構の解析を完遂することを目指していく。 さらには、in vitroで発見したHPV感染細胞と正常細胞間の細胞競合現象をin vivoで解析するためのモデルマウスを構築する。モデルマウスが樹立され、条件検討実験が完了した後にモデルマウスを用いた解析を開始し、in vivoでも正常細胞によるHPV感染細胞に対する細胞競合が起こっていることを証明していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、初年度に初代培養細胞系を用いた解析が完了している予定であった。しかし物理的に時間を要してしまったため、当初の予定を変更して次年度以降に計画していた細胞競合の分子機構解析を前倒しして、既に樹立していたin vitroモデル細胞を用いて解析を開始する計画に変更した。そのため、予定よりも当該年度の支出が減少した。 また次年度に計画している各種スクリーニングを用いた解析では、受託解析の頻度や必要な物品購入にかかる支出が増える可能性が予想されたため、前もって当該年度の支出を抑えることで次年度以降の解析が順調にすすめられる予算が確保できるように調整した。そのため、当該年度からの繰越が生じている。 次年度は当初の実験計画に記載した各種スクリーニングを受託解析などを利用しながら進め、当該年度からの繰越を利用して必要に応じたスクリーニング・受託解析の拡充を行うことによって、より良い成果を得られるように研究を遂行する。 同時に、in vivoで感染細胞に対する細胞競合を解析するためのモデルマウスを樹立していく。樹立後に条件検討実験が完了した際には、モデルマウスを用いた解析を開始していく。
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