研究実績の概要 |
本研究は、内陸アラスカにおける1)細石刃石器群に用いられた石器石材とその分布状況、2)細石刃および彫器制作技術の歴史的変化、3)石器製作技術と石器石材の関係を明らかにするという目的で実施された。過年度は、フィールドワークとして内陸アラスカの遺跡周辺地における石器石材分布調査と、主にスワンポイント遺跡とブロークンマンモス遺跡出土の細石刃核と彫器を対象に出土資料の調査を行った。 上述した遺跡を含む同地域の遺跡から出土する細石刃および彫器の多くは、二酸化ケイ素の含有量が高い石材で製作される。一般的に、チャート製の占める割合が高く、それに玉髄、流紋岩、黒曜石などが続く。最終年度は、こうした出土石器の石材傾向と、現地で収集した岩石のうち肉眼で石器石材として使用可能な特徴を持つ試料との比較検討を行った。岩石試料は、薄片資料化され、偏光顕微鏡観察および蛍光X線回析を用いて、岩石学的な同定が行われた。 同定の結果、1)アラスカ山脈に水源を持ち、遺跡地周辺でタナナ河北岸に合流するLittle Delta RiverおよびDelta Creekの河岸に大量のチャートおよび少量の流紋岩が分布すること、2)氷河によってアラスカ山脈から遺跡地周辺に運ばれた岩石(モレーン)の中にも少量のチャートが認められること、3)細粒石英を多く含む黒色・緑色頁岩が、距離的に離れた複数地点で一定量分布することが明らかとなった。なかでも結果1)は、川幅の広いタナナ河の対岸に位置するために直近とは言えないが、遺跡から最も近い石材資源分布地が明らかとなったことから、約14,500年前(cal BP)から白人との接触期に到るまで断続的に利用されていた可能性が高いと言える。3)の頁岩は、現地の先行研究で石器石材として認識されておらず、岩石学的分類基準の相違による呼称の違いとも考えられる。
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