Toxoplasma gondiiは多くの温血動物に感染する一方、大部分は急性感染期のうちに宿主の免疫機構により排除される。一方、免疫反応を逃れた一部は中枢神経系等においてシストを形成し、慢性感染へと移行する。本研究では、この体内伝播メカニズムの解明を目的に、細胞遊走を誘導する宿主の生体防御機構と原虫因子との相互作用について、特に原虫由来Cyclophilin 18(TgCyp18)について注目した解析を実施した。TgCyp18は樹状細胞やマクロファージからIL-12の産生を誘導するとして報告された原虫因子であるが、原虫にとっての生理的役割に関する知見は少なかった。本研究では、TgCyp18に関する遺伝子組換え原虫を作製し、宿主体内での感染拡大への影響を調べた。in vitroの実験では、Vero細胞への侵入率や細胞内増殖率にTgCyp18の欠損による影響は認められず、マウスの腹腔マクロファージや骨髄由来樹状細胞からのIL-12p40産生にも有意差は見られなかった一方、マウスへのタキゾイト腹腔接種では、感染後5日の腹腔浸潤細胞や脾臓における原虫数がTgCy18欠損型で低い傾向にあり、感染後30日の脳内原虫数も減少していた。また、感染後5日の腹水中のIL-12p40産生も欠損型で低下していた。一方、原虫の株に関わらず感染マウスの腹腔浸潤細胞集団でケモカイン受容体CCR5やCXCR2の発現増加が認められたことから、これらの受容体を持つマクロファージや好中球など免疫細胞が感染局所に増加したことが示唆された。また、共免疫沈降を利用したプロテオーム解析により、TgCyp18と小胞体中の分子シャペロンとの相互作用を示唆する結果が得られ、TgCyp18が宿主免疫細胞におけるタンパク質フォールディングへの作用を介して、原虫が感染局所から全身へ感染を拡大する過程で機能する可能性が示された。
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