研究実績の概要 |
本研究では、タイがエスノサイエンスを正規カリキュラムに取り入れた社会的背景との関連に着目して、現段階での教育的成果および課題の考察を行う。本研究の成果を通じて、日本における社会的課題の理解、並びにその解決に貢献する理科教育の開発に示唆を得ることを目指した。 その結果、これまでタイの科学教育改革は欧米の知見を中心に進められ、エネルギー問題や環境資源など国際的な課題についての取り組みが進む一方で、地方に適合しない方法であるという反省から、各地方の実情にあった科学教育が求められ、カリキュラム改革がなされたという背景を明らかにした。ただし現地調査の結果、カリキュラムに組み込まれたlocal wisdomは,教科書や全国レベルの教員研修では導入が進んでいないという課題が明らかとなった。その背景に,教員の能力不足や,宗教や文化の違いが重要課題であるが、その実行が難しいという点が明らかになった。また、成功事例の分析から、(1)コンテンツにエスノサイエンスを取り入れるだけではなく、知識として地方の内容を盛り込み,多様な視点を取り上げるという内容の工夫と,多様な意見や思考を受け入れる授業方法(構成主義的手法)の一体化が必須であること、(2)教科書の内容と地元の状況の比較を各回に実施させ,系統的な知識の獲得と実生活への応用を両立していることを明らかにした。 ・最終年度の成果:これまでの研究の総括として全国学会に査読付き論文1本が採択された。また、本学大学院紀要に論文(共著)が採択された。実際に現地に赴いての調査はできなかったが、タイの協力機関と連携し、WEB会議システムを用いて子どもの学習理解についての質問紙調査を実施することができた。しかし、感染症の盛況で調査を終了できたのが年度末であったため、このデータの分析は後続の研究によって遂行したいと考えている。
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