本研究では、津波のような解析領域が複雑に変形する物理現象に対する数値シミュレーション手法として広く利用されている粒子法を数学的に捉え直し、流れ問題に対する新たな高精度粒子法の開発とその誤差解析による数学的正当化を推進する。 最終年度である2020年度は、これまでに得た数学的評価をもとに、主に工学研究者と共同で実用的な高精度粒子法の開発とその数学的理解を深めた。まず、2018年度に得られた非圧縮性Navier-Stokes方程式に対する粒子法の安定性条件と従来の経験的な安定化法をもとに、粒子分布を適切に補正する新たな粒子法を提案した。従来の安定化法では流速と粒子分布の補正を同時に行っていたのに対し、提案手法は、粒子法の数学的な安定性の条件が本質的には粒子分布の正則性に起因していることに着目することで、流速と粒子分布の補正を選択的に補正するように定式化される。これにより、混相流のような場所や状態によって流体の密度が変化するような問題でも安定に数値計算できるようになり、粒子法の適用範囲の拡張に成功した。 また、粒子法(特にMPS法)における近似微分作用素の包括的な導出も行った。従来の近似微分作用素(特に勾配、発散、ラプラシアン)の導出は各微分階数に応じて異なる導出がなされており、異なる微分階数を含む方程式での近似の整合性が長年議論されてきた。本研究では多変数かつ高階のTaylor展開と多項式基底を用いることで、従来の近似微分作用素や混合偏微分などの新たな近似微分作用素を同時に導出できる方法を示した。これにより、長年議論されてきた粒子法の整合性の議論を肯定的に解決できただけでなく、非等方的な拡散や変数変換を含むような問題にも粒子法の拡張が可能となった。近似混合偏微分作用素の応用として、任意形状の底面を平面に変換して解析する手法を提案し、検証問題で高い精度が得られていることを確認した。
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