研究課題/領域番号 |
17K17594
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
望月 研太郎 東北大学, 医学系研究科, 大学院非常勤講師 (20633499)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 始原生殖細胞 / RNAiスクリーニング / ヒストン修飾 |
研究実績の概要 |
生物は生殖細胞と体細胞とから構成される。ヒトを含む哺乳動物では、生殖細胞が唯一、精子または卵子を形成した後に、受精を経て世代の継承を保証する。生殖細胞の異常は不妊や子孫が持つ種々の疾患の原因となる。マウスの生殖細胞は、胎齢7日頃に多能性細胞塊エピブラストの一部から、40個程度の始原生殖細胞(PGC)として分化運命決定を受ける。この際、少なくともBMP4やWNT3のシグナル伝達経路が重要であることは知られているが、分子メカニズムの多くは依然として不明である。そのような状況において、研究代表者は、マウス胚性幹(ES)細胞から、PGC様細胞を誘導するin vitroモデルで、エピブラストからPGCが分化運命決定される過程に関与する遺伝子を抽出するRNAi(RNA干渉)スクリーニング系を構築した。 PGC様細胞の培養モデル系を駆使して、ヒストン修飾酵素を網羅的にスクリーニングすることが本研究最大の売りである。これまでに、BMP4やBLIMP1などPGC分化運命決定に機能する分子はいくつか同定されてきたが、それらと関わるエピジェネティック修飾や分子ネットワークについては依然として不明な部分が多い。本研究から、PGC分化運命決定を促進するヒストン修飾、ならびに抑制するヒストン修飾がフルセットで明らかになり、分子ネットワークの全体像に切り込む突破口が見えてくる。 また、PGC分化運命決定は生殖細胞の発生分化の初発段階に位置することから、そこで機能するエピジェネティック修飾は、後の段階のエピジェネティック修飾のパターン確立に関わり、減数分裂や精子/卵子形成、受精、個体発生にも大きな役割を担う可能性が高い。本研究は、そのようなヒストン修飾を明らかにして、生殖細胞の発生分化の理解に大きく貢献できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度では、既述したスクリーニング系を用いて、主要なヒストン修飾であるアセチル化・メチル化・リン酸化を担う199の酵素遺伝子を網羅的にスクリーニングした。その結果、例えば、ヒストンH3/H4の脱アセチル化を担う酵素、またはヒストンH3リジン9(H3K9)のメチル化修飾を担う酵素ををノックダウン(KD)するとPGC様細胞が減少した。各ノックアウト(KO)胚を観察したところ、in vitroモデルとよく対応して、PGCがほとんど全く形成されないことが明らかとなった。このようなヒストン修飾酵素を複数遺伝子同定し、本課題計画の前半部分を既に達成した。 さらに、in vitroモデル系を用いた解析で作用機序の詳細を明らかにして、H3/H4脱アセチル化が中胚葉・外胚葉細胞系譜への分化に働く遺伝子群を網羅的に発現抑制すること、H3K9メチル化がエピブラスト特異的な転写因子を抑制することで、PGC分化運命決定に寄与することを見出し、これらについて現在投稿論文を改訂中である。
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今後の研究の推進方策 |
例えば、SUV420H2酵素(H4K20me3修飾)とKAT7酵素(H4K5/8/12/16/20ac修飾)とは拮抗し合い、RNF40酵素(H2BK120ub修飾)とKMT2D酵素(H3K4me3修飾)とは亢進し合う。すなわち、ヒストン修飾はそれぞれが独立に機能するのみならず、修飾間の絶妙なクロストークが種々の生命現象の決め手となっていることが近年明らかになりつつある。そこで、今後は、同定した複数の各酵素が調節するヒストン修飾間のクロストークを明らかにし、そのアウトプットとして起こるPGC分化運命決定の遺伝子発現制御システムをサンプル細胞数の制限を克服してin vivoで包括的に解明することを目指す。 当該年度では、解析に供する細胞数の制限から、in vitroモデルであるPGC様細胞誘導系を用いて、PGC分化運命決定のメカニズムを明らかにしてきたが、今後では、細胞数の問題点を克服し、in vivoサンプルを用いた解析を可能にする。さらに、各ヒストン修飾と遺伝子発現制御とを一対一の対応ではなくクロストークの結果として、包括的に理解することを目指す。
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