研究課題/領域番号 |
17K17602
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
村上 麻佑子 東北大学, 学術資源研究公開センター, 協力研究員 (70791565)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 災害史 / 気候変動 / 古代史 / 銭貨 / 貨幣史 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、樹木年輪セルロース酸素同位体比をもとに復元した1年単位の夏の降水量の変動データ(湿度データ)と六国史の飢饉災害記事、および銭貨政策の関連記事の整合率、連動の具合を調べるため、エクセルで年別の対応表を作成し、データの適合性の分析を行った。 結果として、湿度が異常に高い年、低い年には旱害や水害が発生する事例を多く確認できた。しかしながら、その整合率は湿度が高い湿潤傾向にある場合は約三分の一程度の一致、湿度が低い乾燥傾向にある場合は約半数の一致で、乾燥傾向にある方がより文献との連動がみられるものの、必ずしも湿潤、乾燥傾向にあっても文献資料には災害記事がのこされない事例も多くあることがわかった。この点については、六国史を記載した統治層の恣意性なども考慮に入れる必要がある。 銭貨政策との関連については、銭貨発行のタイミングと気候変動によって生じた飢饉災害記事の連動に注目して分析を行った。これにより、銭貨発行の数年前から飢饉災害が繰り返し起こる中で、10倍の価値を持った新しい銭貨の発行に至るケースがほとんどであることがわかった。また、飢饉災害への対応としては、穀物の供給や勧農政策が主流であるが、それが飢饉災害の深刻化による穀物不足が発生して対処できなくなっていった際に、飢饉に苦しむ都市民たちに購買力を付加するために新銭の発行にいたるという一連のプロセスを見出すことができた。以上の点からして、新銭の発行は災害や飢饉への対応策の一環という側面を持ち、これは貨幣の性質としては特殊な、古代銭貨ならではの特質であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、申請者が出産のため産前産後休暇及び育児休暇を取得した関係で、研究を一時中断せざるをえなかった。しかし復帰後、積極的に研究の報告および議論の場を設けて研究を行ったことで、論文執筆のための資料準備および分析は十分にできたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、現段階で判明した飢饉災害と新銭発行の関連性について論文を執筆し公表する。また六国史以降の銭貨発行がどういったものであるかということ、および中世における飢饉災害への対応のあり方との違いを分析を行う。加えて、日本における飢饉災害と新銭発行の関連性が、中国においてどのようにみられるものなのか、一致するのか、あるいは異なるものであるのかについて分析を進めることで、日本古代の飢饉災害と新銭発行がどういった位置付けのものであるかを相対的に理解する。研究成果については、全国規模の学会において公表し、その後、研究論文を執筆する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は申請者が出産のため、産前・産後休暇、および育児休暇をとり、研究を一時中断することとなった。このため、その期間の出張や研究活動を行うことが出来なかった。また、復帰後も、子供が幼く授乳が必要であったため、予定通りに出張に出かけることが出来なかった。こうした点から、次年度に繰り越す必要が生じた。 平成30年度以降、再び学会や会議に参加するための出張等を行う予定である。
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