研究課題/領域番号 |
17K17602
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
村上 麻佑子 東北大学, 学術資源研究公開センター, 協力研究員 (70791565)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 古代銭貨 / 飢饉対策 / 災害 |
研究実績の概要 |
2018年度は「古代における気候変動と銭貨流通の関連性分析」と題する論文を執筆した。先行研究では、古代の銭貨が繰り返し一〇倍の価値を付与して発行されたことは、国家が鋳造差益を得ようとして行なった、あまり有効でない政策と捉えられ、また全国に流通せず京畿内を中心に流通したことも、古代日本における商品経済の未熟さとみなされている。 今回の議論で判明したのは、古代銭貨の発行が、気候変動によって生じた災害や飢饉への対策としてなされたものであり、国家のある種のイデオロギーを体現した政策であって、これを商品経済と直結して理解することはできないということである。言い方を変えると、銭貨の流通をみても、古代の商品経済を理解する上で十分な根拠を提供できないことになる。 そもそも古代銭貨の流通が、朝廷の息のかかった財政物流の中でしか議論できなかったのは、その範囲での銭貨の利用を国家が志向したことによるものであった。六国史に現われた銭貨は古代日本において特殊な機能を果たした貨幣であって、この貨幣から即商品経済を判断することはできない。古代の貨幣流通の全体像を理解するうえでは、むしろ米や布といった物品貨幣の流通のあり方を追う必要があるだろう。 しかしながら、古代銭貨が気候変動によって生じた災害、饑饉への対応としてみいだされ、利用されたこと自体は非常に重要である。古代銭貨に託された国家的イデオロギーとは、災害発生時に国家が百姓(特に京の貧しい都市民)を救済する使命を、自らに負っていたことを意味するものであった。古代銭貨はこの国家による限定的な用途のために用いられた、特異な貨幣形態であったといえる。 このように、飢饉災害との関連性から日本における古代銭貨の特殊な発行理由を導き出すことができた点が当該年度の研究実績である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度はワンオペ育児とフルタイムの仕事のため、学術研究に割く時間を捻出することが非常に難しかったものの、限られた時間を使い、これまでの研究成果を論文としてまとめることができた点で進展したと考えている。また論文の執筆過程で古代史や環境学の専門家の意見を聴取することができた。今後はそうした意見も加味したうえでさらに研究を進展させていきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
日本における古代銭貨の特質については、気候変動によって生じた災害、饑饉への対応としてみいだされ、利用されたものであることを明らかにした。今後は中国の銭貨政策に目を移し、災害や飢饉との関連性が見出せるのか、またより根源的な視点として、中国において国家が銭貨を発行した理由について考察を試みたい。中国における銭貨政策を明らかにすることによって、日本との違いの有無についても明確になると考えている。 さらに中国だけでなく、インドや地中海地域の貨幣政策にも目配りをしていく予定である。こうした考察によって国家と貨幣の関係性をより広く、深く理解することを目指している。 また古代銭貨以前の日本社会において、貨幣の流通はどのようなものであったかについても、考古学を通して分析を深めていきたい。通史的な視点で見た時、古代国家の銭貨に託したイデオロギーについても、相対的に理解できるものと推測している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
書籍購入の際、大学生協で割引が適用され、当初の予定金額よりも安く購入できたため差額が残った。翌年度分として請求した助成金と合わせ、研究会報告および調査のための旅費と書籍購入に主に支出する予定である。
|