研究課題/領域番号 |
17K17602
|
研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
村上 麻佑子 奈良女子大学, 大和・紀伊半島学研究所, 協力研究員 (70791565)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 貨幣史 / 災害史 |
研究実績の概要 |
本年度は、古代中国における飢饉災害と貨幣の関係性について研究を行った。貨幣と災害に関する最も古い記事のひとつとしては、『国語』周語下にある紀元前525年に出されたとされる大銭鋳造に関する記事を見出すことができる。災害発生後、インフレやデフレが起った場合、価格の高い「重幣」と価格の低い軽い「幣」の両者の数量を調節することで、民衆に利を得させる政策が説かれている。『国語』に現れる「幣」の字は、基本的に貴族間で授受される高価な礼物を指しており、本記事だけが「貨幣」を指すとみられる点で特殊である。 また飢饉と高価な礼物を指す「幣」の間にも関連性があることがわかった。『国語』魯語上や『春秋左氏伝』陰公六年の記事では、天災による飢饉が起こった時、他国に所有する穀物を売ってもらう見返りに、国家間の「礼」として「幣」の贈与が行われている。この「幣」の字は当初は天子や諸侯の間の贈与で用いられる傾向にあるが、戦国時代後期以降、民衆の使用する貨幣(銭貨)を指すようになっている。 前漢期になると、飢饉と関わって貨幣政策が論じられる事例が増加することが、『史記』や『漢書』を通して把握できる。具体的には秦の滅亡、戦争によって生じた高祖二年の大飢饉、水害によって生じた武帝三年の大飢饉、同じく水害による元帝時の飢饉などが挙げられる。それらは、飢饉で救済の施しようがない悲惨な状況下にあって、幣制に変更が加えられた、事後的な貨幣政策であり、いずれも失敗に終わっていた。古代中国における飢饉時の幣制改革は、気休めでも構わないから現状を打開しようと望みをかけたイデオロギー性のある政策と推測できる。 以上のことから、中国においても災害飢饉と貨幣に関連性がみられること、また中国と日本で比較した際、銭貨の流通が一般化した後、飢饉による社会的ダメージが深刻化した際に、幣制改革を行っている点で共通していることを指摘できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までは、古代日本の事例に関して六国史を中心に分析を行ったが、本年度は古代中国の災害と貨幣の関係に視野を広げ、『史記』『漢書』のほか『国語』や『春秋左氏伝』などの古典籍を通覧し、その中で両者が如何に記述されているか、分析を行っていった。 ただ、本年度中に中国の西安へ当該研究の発表、および考古学の専門家との情報交換、資料調査のために行く予定をしていたが、1月以降コロナウイルスの蔓延により、訪中はかなわなかった。そのため、文献史料を精査することで、災害と銭貨政策の関係性を分析することに重点を置き、研究を行うこととなった。
|
今後の研究の推進方策 |
令和元年度は古代中国の事例調査を文献史料を中心に行ってきたが、最終年度には、東アジアの夏季気温復元データを踏まえてデータ整理を行い、文献史料との関連性について分析を行う。そのうえで研究成果を論文にまとめる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本来は海外渡航費として準備していた費用がコロナウイルスの影響で利用できず、文献調査のための書籍購入に充てたが、差額が残った。翌年度分として請求した助成金と合わせ、研究会報告及び調査のための旅費と書籍購入に主に支出する予定である。
|