研究課題/領域番号 |
17K17602
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
村上 麻佑子 奈良女子大学, 大和・紀伊半島学研究所, 協力研究員 (70791565)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 災害史 / 貨幣史 / 古代銭貨 |
研究実績の概要 |
今年度はコロナ禍の影響により、学会発表の機会を得ることはできなかったが、代わりに研究成果を2本の論文として上梓したことで、研究実績につなげることができた。一つ目は、古代中国を中心にして、災害、疫病、飢饉を契機に古代国家による農業および貨幣に関する政策がなされていたという歴史的事実を指摘した「飢餓・疫病と農業・国家の誕生」(『疫病と日本史ー「コロナ禍」のなかから』)である。古代中国では、水害や旱害、疫病といった災害から発生した飢饉への対応として、勧農政策および貨幣発行政策が国家の手でなされており、かつ政治の要として意識されていた。当初貨幣発行は、他国から穀物を買い取る場合や債務奴隷を買い戻す目的で高額貨幣を中心になされていたが、戦国時代以降、国内の穀物を農民から買い取る事例が出現し、戦国秦では農民とやり取りするための銭貨が生み出される。こうした中国の事例を受け、古代日本の場合を考察したのが二つ目の論考、「古代日本における気候変動と銭貨発行の関連分析」(『歴史学の感性』)である。日本の場合、気候変動による災害、疫病から飢饉が発生した時、畿内中心に貨幣価値の高い銭貨を発行する傾向にあり、畿内に集まる都市労働者を救済する目的で発行されていたことがわかる。これは中国で農民と商工業に携わる都市民の双方を救済するために貨幣発行、価格調整政策がなされていたのと異なり、日本独自の救済対象者のために銭貨発行がなされていたことを示している。これらのことから古代国家による貨幣発行が、経済的な発展段階とは無関係に、災害時の民衆救済を目的として投入されたインフラ政策であったことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍のため県を跨いでの移動が難しく、学会発表の場に赴くことはできなかったが、代わりにすでに収集していた史料の分析を丹念に行い、研究論文を執筆することができた。古代日本だけでなく、古代中国の災害や飢饉と貨幣の関係性について分析し、日本の特徴を相対的に理解し、また古代国家による貨幣発行の意義について、所見を得たことが今年度の進展と言える。
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今後の研究の推進方策 |
古代中国、および古代日本の災害・飢饉時の貨幣発行の特徴を踏まえ、他地域における古代国家の貨幣発行のあり方を分析することが本年度の目標である。具体的には紀元前7世紀頃から古代国家による貨幣発行が本格化する地中海地域について、災害・飢饉と貨幣発行の関連分析を行い、関連性の有無、およびその特徴について抽出したい。これによって、広く古代国家による貨幣発行の特徴と地域性を導き出したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で県外移動をすることができず、また産休を取得したため、研究発表と調査に割く予定であった旅費の使用が行えなかった。また書籍購入についても、同様の理由で図書館へ赴くことが困難であったため、次年度に繰り越して行う予定に変更した。
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