研究期間全体を通じて実施した研究の成果の具体的内容としては、古代日本の銭貨発行が、異常気象や疫病流行による飢饉が発生した際に行なわれる傾向にあることから、「飢饉災害と古代銭貨の関連性分析」をテーマに、日本と中国の古代国家が、非常時において貨幣政策を行った意味を探る研究に従事してきた。この研究を通して、古代日本と古代中国、いずれの地域でも貨幣発行は、非常時に混乱し大量死の危機に瀕する社会構造を、立て直すための活路として、国家によって見出された政策であったことを結論付けた。貨幣には、災害や疫病、飢饉といった非常時の社会的ダメージを復旧する機能があり、すでに古代の統治者はそれを理解し運用していたといえる。 研究成果の重要性としては、貨幣の持つ力として、人間社会を維持し制御する力があることを示したこと、また、非常時における貨幣のあり方を見極めることは、貨幣の可能性を探る上で必要であることを導いたことが挙げられる。先行研究において、貨幣は政治史、社会史、経済史の中で平時のものとして扱われ、商品経済を回すための交換手段としての役割を中心に論じられてきた。しかしながら、非常時の意図的な流通が明らかになったことで、大量死の危機に瀕する社会状況に対して、復旧インフラの役割が貨幣に見出されていたことがわかる。これにより貨幣研究に新たな視角を得られたことが、この研究の意義であると考える。 最終年度は、本研究の集大成として、赴任した大学での講義の中で研究成果を披瀝し、専門家や学生と意見交換をしながら議論の妥当性と可能性について、検討を行った。
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