研究課題/領域番号 |
17K17615
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
後藤 純一 山形大学, 医学部, 助教 (70435650)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ニューロン / シナプス可塑性 / ニューロングリア相互作用 / グリア |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、(1)細胞外カリウムイオン濃度の計測手法の改良と(2)細胞外イオン濃度の変化が海馬スライスに与える影響を検討する所から開始した。しかしながら本年度は感染症の流行に伴い、特に年度前半に大幅に実験が遅延した為、前年度から問題になっていた実験装置の改良を主に行った。 (1)細胞外カリウムイオン濃度の計測では主に不十分なシグナル/ノイズ比に起因する精度の不足が問題となっており、ノイズ低減のための実験装置の改良と評価の為の測定を前年度に引き続き実施した。特に計測装置に関しては故障した機器を代替するとともにより計測精度を向上するため、データ取得用デバイスを新たに購入し、これを動作させるためのプログラムの作製を行った。現在の所、1チャンネル構成でのデータ取得が可能な段階まで作動しているので、今後は多チャンネルでの記録と刺激入力系の構築を行う予定である。 (2)感染症の流行に伴う実験機会の減少を補うために、実験データの解析をより効率化する解析プログラムの作製を行った。プログラミング言語にはPythonを用い、これまで1日分の実験データの波形データ解析とグラフ作製におよそ半日から1日程度を要していた所を、概ね数分から10分程度で可能とした。 (3)前年度に引き続き、細胞外イオン濃度を人為的に変化させることでニューロンの機能、特にシナプス可塑性に与える影響について検討をおこなった。可塑性誘導刺激の入力中、入力前、入力後などに細胞外カリウムイオン濃度を変える実験でLTP誘導に影響を与える可能性が示唆されたが、まだ明確な結論が出る段階までは至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
感染症の流行による大幅な実験の遅延と計測機器の一部の故障により進捗が遅れたことが主因である。また、イオン濃度計測の安定性とシグナル/ノイズ比の向上の為に装置の改良を行っているが、計測用のプログラム制作が難航しているため、改良した実験装置の方では実際のデータ取得にまでは至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、細胞外カリウムイオン濃度の一時的な変化がシナプス可塑性誘導に与える影響について解析を進める。LTP誘導と脱増強(depotentiation)のそれぞれの可塑性誘導について細胞外カリウムイオン濃度の一過性上昇による影響についてのデータをさらに追加し、統計学的な解析を行う。また、可塑性誘導に影響が見られる条件下において、興奮性シナプス後電位と活動電位の関係性や、ニューロンの内因的興奮性(intrinsic excitability)に何らかの影響があるかを調べることで、カリウムイオン濃度の一過性変化が長期的に及ぼす影響について検討する。 イオン選択制電極の測定値の安定性の問題は実験装置を一部組みなおすことで解決を目指す。現在、制御用のプログラムが1チャンネルでの計測がほぼ可能になっているので、これを多チャンネルに増やすとともに、刺激入力系の構築を行う。 また、シナプス可塑性や電気生理学的特性等のニューロンの機能にグリア細胞がどの程度影響を与えているかを調べるために、アストロサイトの役割について調べる。上述のイオン濃度条件下において、(1)アストロサイトによる細胞外カリウムイオンの回収機構を阻害する、(2)アストロサイトにパッチクランプ法を適用し膜電位計測をおこなうとともに、各種の阻害薬の効果を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症の流行による実験計画の遅延、及び昨年度の機器の故障に伴う実験装置の構成の変更と計測用プログラムの作製により計画全体が遅れたことにより次年度使用額が生じた。次年度では引き続き(1)計測用プログラムを完成させる(2)パッチクランプ用の実験装置を稼働させ、実際のデータ計測が可能になるようにノイズ除去などの調整を行う、の2点を終了させ、その後、途中の段階で止まっているデータ計測を行う。この過程で計測用プログラム作製の支援に用いるソフトウェア、実験用の動物や試薬等の購入に当該予算を使用する。また、実験装置の構成変更を行う過程で必要が生じれば機器の修理や購入に予算を使用する可能性がある。
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