研究課題/領域番号 |
17K17615
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
後藤 純一 山形大学, 医学部, 助教 (70435650)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ニューロン / シナプス可塑性 / ニューロングリア相互作用 / グリア |
研究実績の概要 |
前年度に投稿した論文が掲載された(doi: 10.1101/lm.053542.121.)。同論文はIP3受容体結合タンパク質であるIRBITのKOマウスを用いて急性海馬スライス中のSchaffer側枝ーCA1シナプスにおける脱増強現象・及びLTP抑制現象を調べた。先行研究では1型IP3受容体のKOや阻害薬の投与によってCA1シナプスにおける脱増強・及びLTP抑制が阻害されることが示されていたが、IRBIT KOマウスでも同様に脱増強・及びLTP抑制の両方が阻害されていた。一方でIP3受容体KOマウスでは亢進していたshort tetanusによるLTPには変化が認められなかった。このことはIP3受容体シグナルの下流で1)脱増強・LTP抑制と2)short tetanus LTPの少なくとも2つの情報伝達経路が存在することを示していた。後者の経路に関してはストア作動性カルシウム流入チャネルの関与が疑われており、またストア作動性カルシウム流入チャネルの阻害薬を海馬スライスに投与するとCA1錐体細胞の興奮性が上昇することを確認している。 また、IP3受容体やストア作動性カルシウム流入チャネルの阻害薬を投与することでCA1シナプスにおける脱増強が阻害されるが、IP3受容体シグナルの各分子について、IP3受容体自体、ストア作動性カルシウム流入チャネル、及び小胞体上のカルシウムポンプ(SERCA)等をそれぞれ阻害することで、どの薬剤処理がより脱増強を阻害するかについては前年度までに既にデータを得ているが、この結果について論文投稿の準備中を行っており、次年度以降に論文が受理される見込みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
感染症の流行による大幅な実験の遅延と計測機器の一部の故障により進捗が遅れたこと、及び学会業務等の本研究以外の業務量が大幅に増えたことが主な要因である。また、イオン濃度計測の安定性とシグナル/ノイズ比の向上の為に装置の改良を行っているが、計測用のプログラムの調整が難航しているため、現在は既に取得できたデータの範囲内で論文投稿の準備を優先して行っている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、まずは既にデータが得られている部分について論文投稿を行う。 また、細胞外カリウムイオン濃度の一時的な変化がシナプス可塑性誘導に与える影響について解析を進める。LTP誘導と脱増強(depotentiation)のそれぞれの可塑性誘導について細胞外カリウムイオン濃度の一過性上昇による影響についてのデータをさらに追加し、統計学的な解析を行う。また、可塑性誘導に影響が見られる条件下において、興奮性シナプス後電位と活動電位の関係性や、ニューロンの内因的興奮性(intrinsic excitability)に何らかの影響があるかを調べることで、カリウムイオン濃度の一過性変化が長期的に及ぼす影響について検討する。 イオン選択制電極の測定値の安定性の問題は実験装置を一部組みなおすことで解決を目指す。現在、制御用のプログラムが1チャンネルでの計測が部分的に可能であるが、さらに長時間の安定した記録を行うとともに、これを多チャンネルに増やし刺激入力系の構築を行う。 また、short tetanus LTPがIP3受容体KOマウスで亢進するのに対してIRBIT KOマウスでは野生型と有意差がないことから、ストア作動性カルシウム流入チャネルが関与している可能性がある。ストア作動性カルシウム流入チャネルの阻害薬がCA1錐体細胞の興奮性を変化させることから、これとshort tetanus LTPや脱増強等との関連を細胞外カリウムイオン濃度との関係も含めて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症の流行による実験計画の遅延、学会業務等の本研究以外の業務、及び機器の故障に伴う実験装置の構成の変更と計測用プログラムの作製により計画全体が遅れたことにより、まだ論文発表にまで至っていないデータがあり、これらの論文投稿や追加実験にかかる費用を一定程度確保する為に次年度使用額が生じた。次年度では引き続き論文投稿作業を行うと共に、必要に応じて追加実験等を行う予定である。
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