研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,漢字部首の空間配置に関してパターン認知理論の観点から「評価パターン」を作成して,児童の漢字書字エラーを分析し,認知モデルを提唱することである。 2019年度は,児童の漢字書字エラーについて分析を行った。2018年度までに,成人を対象とした評定実験により,エラーを分析するための評価パターンの妥当性について確認した。特に,「同等集合サイズ(Garner, 1962)」,「パターン内変換構造説(松田, 1978)」,「物体数の影響(Takahashi et al., 2012)」の3つの観点で分析できることを突き止めた(Takahashi & Tsurumaki, 2018)。 分析対象者として,定型発達の5年生(54名)および6年生(59名)のデータを用いた。刺激として,「国」,「森」,「積」など学年別漢字配当表の4年生で習う12の漢字に関する書字の正答率を用いた。その際,2018年度に作成した評価パターンをもとに,漢字パターンの複雑さについて Simple,medium,Complex の3つに分類して正答率を算出した。さらに,注意欠如多動性障害(ADHD)の傾向と漢字書字エラーの関連についても分析を行うため,担任教師から得られた ADHD rating scale(不注意,多動性-衝動性)のデータも用いた。学年に関する分析から,Complex なパターンでは,5年生よりも6年生の方が正答率が高いことがわかった。また,5年生では,漢字パターンの複雑さが高くなるにつれて,正答率の低くなることが示唆された。ADHD傾向に関する分析から,5年生では,不注意の評定得点が上昇するにつれて正答率の低くなることが明らかとなった。以上より,児童を対象とした漢字パターンの複雑さの影響が示された。 2020年度は,最終年度として,研究のまとめと認知モデルの検討を行う予定である。
|