本研究課題の目的は,漢字部首の空間配置に関してパターン認知理論の観点から「評価パターン」を作成して,児童の漢字書字エラーを分析し,認知モデルを提唱することである。 これまでの分析によって得られた研究結果については,2019年度のうちに論文の投稿を完了した。2020年度は,投稿済みの論文の修正とデータの再分析,および研究のまとめとして認知モデルの検討を中心に行った。まず,投稿した論文については,ADHD傾向の個人差との関連について分析結果の弱点が見つかったため,もう一度データ分析を行い,論文を再投稿した。しかしながら,別の刺激統制の観点でも欠点が指摘され,データ分析をやり直した。データについては,小学生を対象とした研究の特性上,新たなデータ取得は見込めない。分析方法の変更によって対応し,再度,投稿を完了する。 次に,認知モデルの検討については,鏡映文字と心的イメージ(空間イメージ)との関連について既に知見を発表していたこともあり,本研究ではイメージに着目して考察を行った。当初の予定ではイメージまでは想定していなかったが,研究を進める上で特異的な事例を見つけることができ,言語情報処理との関連について考察が可能となった。特に,イメージが形成できない事例をとりあげ,その認知モデルを考察しながら,漢字書字(鏡映文字)と空間イメージとの関連について検討した。心的イメージを形成できない事例では,物体イメージの形成が難しい一方で,特異的に空間イメージの形成は可能である場合も報告されている。したがって,物体情報としての文字認知は難しいものの,空間イメージに困難は見られず,結果として鏡映文字は生じにくい可能性が推測された。一方で,心的イメージが形成できない事例では,物体イメージに加えて空間イメージも形成できない場合も報告されているため,さらなる検討が必要である。
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