私たちは、尿路病原性大腸菌(UPEC)の膀胱上皮細胞に対する病原性が膀胱内の鉄イオン飢餓環境によって誘導されるということを発見した。本研究では、鉄イオン飢餓環境における本菌の病原性発現の分子メカニズムを解明することを目的とした。 私たちは、これまでにUPECの主要な病原性因子であるI型線毛の発現が、鉄応答性の病原性因子FurとRyhBによって抑制されていること、一方で、鉄イオン飢餓環境ではI型線毛の発現が脱抑制されることを見出していた。本研究では、新たにP線毛および、鞭毛構成因子であるフラジェリン蛋白質の発現もFurとRyhBによって抑制を受けており、鉄イオン飢餓環境においては、その抑制が解除されることで、結果的に病原性が誘導されることを発見した。また、P線毛に関しては腎臓上皮細胞に対する病原性にも寄与していることが報告されている。本研究において、furとryhB欠損株および、鉄イオン欠乏環境を模倣した腎臓上皮細胞感染実験を行った。その結果、膀胱上皮細胞だけでなく、腎臓上皮細胞に対する病原性もFurとRyhB依存的に、鉄イオン飢餓環境において誘導されることがわかった。 さらに、本実験の過程で、UPECにとっての新たな病原性因子と考えられる蛋白質群Tol-Pal蛋白質複合体を発見した。これらは、元々コリシン取り込みや外膜蛋白質の保全に寄与していることが知られていたが、今回欠損株等を用いた実験によって、新たに鞭毛の構成並びに、膀胱上皮細胞に対する病原性にも関与していることも明らかにした。加えて、本研究では新たにin vivoにおけるUPEC病原性の評価系として、経尿道感染モデルマウスの構築にも成功し、より詳細なUPECの病原性評価を行うことが可能となった。
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