学校へのICT 投資の望ましい水準を評価するためには、学校へのICT 投資が教育成果に与える影響を厳密に計測する必要がある。ICT 投資の決定と教育成果の決定には観察できる要因だけではなく、分析者には観察不能な要因が作用するため、自然実験の利用が必要とされる。本研究では、平成21 年度より事業化された「学校ICT 整備事業」により、交付団体と不交付団体に非連続な学校ICT 投資の差が生じたことを自然実験と見なし、学校へのICT 投資が教育成果に与える効果、学校へのICT 投資がどのような子供により影響を与えるのか明らかにする。 最終年度は、これまでに構築した市区町村別データと家計単位の個票データを接合させたうえで、分析を行った。得られた結果は以下の通りである。まず、自治体レベルのICT整備状況のデータ分析によると、2003年から2017年にかけてPC台数あたり児童生徒数は低下している、交付団体から不交付団体に変化する近傍においてPC台数あたり児童生徒数は不連続に低下する。家計単位の分析によると、政策によりPC台数あたり児童生徒数が引き下がった市区町村に居住している子どもの算数スコアは統計的に有意に引きあがる。操作変数法によると、子ども用のPCが自宅にあることは、算数数学スコアを引き上げる結果をえた。ただし、この結果は女児に対してのみ観察された。これらの結果は、インターネットの利用時間、家計の支出やインターネット利用料金への支出の変化を通じて影響をあたえるわけではない。
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