研究課題/領域番号 |
17K17640
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
田中 有弥 千葉大学, 先進科学センター, 助教 (90780065)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 電気化学発光セル / 変位電流評価法 / インピーダンス分光 / 電気二重層 / 電気測定 |
研究実績の概要 |
本研究では微小電場重畳型変位電流評価法(AC-DCM)を新しく構築して電気化学発光セル(Light-emitting electrochemical cell (LEC))に適用し,三角波電圧に対する応答でイオンの,交流電圧に対する応答で電荷の挙動を同時に観測することを目的としている.具体的には,低周波の三角波電圧に,それより100倍程度早い高周波の微小交流電圧を重畳して素子に印加することを想定している.本年度は,昨年度構築したAC-DCMの原理検証とLECの作製,およびAC-DCMによるLECの評価を行った. まずは理想コンデンサを用いて,AC-DCMの原理検証を行った.電圧を印加すると正負の直流電流成分に交流信号が重畳された電流波形が観測された.これらはそれぞれ三角波電圧と正弦波電圧の応答信号に対応している.定量的な解析を行った結果,直流電流値,交流成分のインピーダンス(Z)と位相は,計算値とほぼ一致した.これはAC-DCMが正しく素子を評価できていることを意味している. 次に発光性ポリマーであるSuper Yellow,イオン液体であるP66614-TFSAからなるLECの作製を作製し,構築したAC-DCMを適用した.LECでも三角波電圧の応答成分に加えて,微小な交流信号が重畳された電流波形が現れた.印加交流電圧と応答交流電流からZを算出し,三角波電圧の依存性を調べた.その結果印加電圧の増加に伴い,Zが減少することがわかった.この結果は電圧印加に伴い電気二重層が形成され,効率的な電荷注入が生じたことを示している.また順方向掃引(三角波電圧:-0.5 V → 3 V)と逆方向掃引(三角波電圧:3 V → -0.5 V)を比較した.すると非常に興味深いことに,順方向掃引のZの方が大きいという結果が得られた.現在解析方法と再現性の確認,メカニズムの検討を行っている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度はAC-DCMの構築に必要なファンクションジェネレータ,オシロスコープ,電流電圧アンプを選定した後導入し,AC-DCMの測定系を組んだ.本年度はそのAC-DCM測定系を用いて測定法の原理検証を行い,作製したLECにAC-DCMを適用する計画であった. 研究実績の概要に記載のとおり,AC-DCMで理想コンデンサの評価を行い,得られたインピーダンスが実験値と理論値でほぼ一致した.これは構築したAC-DCMがきちんと動作しており,また解析方法も妥当であるということを示している. 次にLECの作製を行った.当初は共役系高分子を発光材料,高分子電解質をイオン伝導体としたLECと,イオン性遷移金属を用いたLECの二種類を作製し,評価を行う予定であった.その後Super YellowとP66614-TFSAからなるLECが典型的な構造であることが判明したため,まずはこの素子の作製手法を確立し,AC-DCMを適用した. AC-DCMを実デバイスへ初めて適用したが,想定通り三角波電圧の応答成分に加えて,微小な交流信号が重畳された電流波形が現れた.これによってLECにおいてもAC-DCMが測定可能なことが明らかとなった.また順方向掃引時と逆方向掃引時のインピーダンスが異なるという,興味深い結果も得られた. 当初二種類のLECに対しAC-DCMを適用する予定であったが,上記のとおり典型的なLECでこれまでに報告されていない現象を見つけることができた.このメカニズムの解明が最も重要であるため,AC-DCMによる複数種類のLECの評価の優先度を下げた.このような多少の方向転換はあったものの,AC-DCMの原理検証とLECの作製,AC-DCMのLECの適用全てを達成したことから,本年度はおおむね順調に進展しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
当初は三角波電圧に対する応答でイオンの,交流電圧に対する応答で電荷の挙動を同時に観測することを目的とし,二種類のLECを評価する予定であった.しかしSuper YellowとP66614-TFSAからなる典型的なLECをAC-DCMで評価を行うと,順方向掃引時と逆方向掃引時のインピーダンスが異なるという,非常に興味深い結果が得られた.この現象はこれまで報告されておらず,このメカニズムの解明こそがLEC動作機構の解明につながるため,今後は解析手法の妥当性の検証と再現性の確認に重点を置く. インピーダンスの差はおそらく電荷注入効率差に起因していると考えている.つまり電極/活性層界面に形成される電気二重層が,順方向と逆方向掃引とで,その電圧依存性が異なる可能性がある.このモデルを検証するために,比較素子を作製する.例えばインピーダンスの差が電気二重層の形成に起因している場合,膜厚には依存しないが,ドープ濃度によって変化が現れる可能性が高い.そのため活性層の膜厚を変えた素子と発光材料のドープ濃度を変えた素子を作製して評価を行う. また申請の段階では,等価回路の同定と容量成分の定量的解析のために,最終年度はインピーダンス分光測定も行う予定であった.当初は海外での実験を念頭に置いていたが,国内実験も視野に入れて検討を行う予定である.
|