研究課題/領域番号 |
17K17641
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
李 根 千葉大学, 大学院工学研究院, 特任助教 (00774035)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生物規範工学 / 遊泳ロボット / 計算流体力学 / 磁場制御 / 波動的な遊泳 / エネルギー最適化 |
研究実績の概要 |
本研究は工学実験と計算流体力学の学際的な研究である.平成29年度では,磁場を用いた制御システムを伴う生物規範型小型遊泳ロボットの開発と,「流体力学」,「構造力学」並びに「動力学」の統合解析ソルバの開発を行った. 平成29年度では,工学実験において,磁場生成システムの構築(ヘルムホルツコイル,水槽,および電気回路システムの製作),並び多磁場による制御する変形遊泳ロボットの製作を完了した.水中ロボットの波動運動を実現するためには,コイルを用いて往復磁場を作り,ロボットの頭部を左右に動かす.それによって,ロボットの胴体は受動的な変形を起こし,波動運動をする.磁場装置とロボットの試作が成功したことで,独特かつ精妙な流体実験装置が構築できた.本装置では,ロボットに全く接触しない状態で,ロボットに波動的な遊泳をさせることができる.それは,接触式な駆動装置での自由度の束縛制限を解放できるだけでなく,輸入効率の概算値も簡単に出せる.よって,本装置は今後魚類の遊泳原理の解明や,生物規範型ロボットの最適化の実験に活用できることが期待できる. また,計算流体力学においては,弾性的な変形の計算が可能な「構造力学」ソルバの初歩な構築,および「流体力学」,「構造力学」と「動力学」の統合解析ソルバのテストを行った.本統合解析ソルバは,弾性変形体の水中運動のようないくつか異なる力学性質をもつ複雑な解析において,商用流体計算ソフト以上の正確度を出すことができる.今後,魚類の遊泳原理の解明や,生物規範型ロボットの最適化などの流体力学の解析に大きな役割を果たすことが期待できる. 本年度の成果に基づき,来年度も研究計画書に沿って研究を進む予定である.波動的な遊泳において,推進効率の最大化はエネルギー消費が増加する可能性があることを示し、遊泳ロボットの性能の評価・最適化ができるシステムを構築する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究は,工学実験の方も計算流体力学方も順調に進んだ. 1.磁場生成システムの試作の完成。磁場発生用のコイルは最初では手作りのものを用いたため,精度が低い,そこでフランスの共同研究者にアトバイスを求めた結果,高精度・低コストの工業既製品を導入し,磁場生成システムの構築が順調に終えた.磁場生成システムはヘルムホルツコイル(空間的に均質な磁場を発生できる,同一の二つのコイルを同一の中心軸を持つように配置し,距離はコイルの半径である),水槽,周期的な磁場を制御する電子回路及び測定システムから成る.直流電流を与えた状態での測定結果によると,磁場の空間均一性と時間的な安定性共に問題がない. 2.磁場により制御する受動的変形遊泳ロボットの設計の完成。ロボットの頭部は磁石と密度が低い材料(磁石の密度を中和するため)を用いた.具体的には,計算により適切なサイズのPP球を選び,人工的に切削研磨を行い半球にし,中に穴を掘り磁石を入れる.さらに半球を合わせて球体を作る.最初に設計したシングル磁石の頭部以上に,横方向に力が生成しないトルクのみを生成するダブル磁石の頭部も制作した.頭部以外は,密度が水に近い,均一の厚みを持つ長方形の弾性ゴムを用いた.これにより,全体の密度は水とほぼ同じく,頭部が磁場の影響で左右運動する際に,胴体が受動的な変形を伴い,波動運動を実現した. 3.流体構造連成解析(FSI)を含んだ波動的な自由遊泳の数値計算ソルバの開発。遊泳ロボットの尻尾の部分は水平面しか変形できないことを仮定し,弾性変形理論モデルを用いて2次元の弾性変形の計算モデルを構築した.その後,弾性変形の計算モデルと既存の「流体力学」-「動力学」ソルバと弱連成し統合ソルバを構築する.現在では,統合ソルバのテストと調整を行なっており,パラメターの修正,精度検証,及び安定性と効率の向上に力を入れている.
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今後の研究の推進方策 |
1.現所属機関の資源を十分に利用して,遊泳ロボットの実験と計算流体力学の統合を実現する。本研究の担当者は2018年4月から国立海洋研究開発機構に転勤した.転勤先では,3Dプリンターを含む様々な加工設備,PIV測定設備や,高速度カメラと高性能な計算機を整備しておる.今後,それらの設備を利用して,高速度カメラによるロボットの運動の撮影とPIV(粒子画像化速度計測法)による流れ場の測定や,高性能計算機による計算効率と計算精度の向上を図る.遊泳ロボットの実験と計算流体力学の統合(互いの検証)を用いて,計算流体力学モデルの信頼性の評価する. 2.実験するための電源を確保する。現在工学実験での主な問題は,実験を行うための先進的な電源が必要である.実験を行うための交流電源は,1)5-50Hzの範囲で変化できる;2)電流5A電圧60V;3)ファンクションジェネレータによる制御ができる.現在、海外のメーカーにも問い合わせしている。 3.「流体力学」-「構造力学」-「動力学」の統合解析ソルバの安定性を高める。現在計算力学での主な問題は,統合解析ソルバの安定性が足りないことである.安定性を高めるために,これからは実際のロボットの胴体の材料の物理特性を元に,「構造力学」ソルバの中の弾性と抵抗のパラメターを合理に調整する.さらに,高性能の計算機を用いて,タイムステップを十分に小さくし,メッシュの密度を増加し,精度と安定を高めることを目指す. 4.研究成果の発表。流体力学の雑誌は審査期間が長いこともあり,論文の発表は研究の進捗よりは一般的に遅れる傾向にある.去年の成果は去年度内ではまだ発表できていない.今年度では,遊泳ロボットの実験と計算流体力学の統合の実験データの整理を進めて,高いインパクトの雑誌に論文をより効率的に発表することを目指す.
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