ナルコレプシーは代表的な過眠症である。患者は日中の耐え難い眠気を経験するとともに、夜間の睡眠が断片化する。患者の脳の視床下部では、オレキシンを産生する神経細胞(オレキシン細胞)が脱落している。オレキシンノックアウトマウスの表現型がヒトナルコレプシーの症状に類似していることからも、オレキシン細胞の脱落がナルコレプシーの原因と考えられているが、脱落のメカニズムは明らかになっていない。 研究代表者はこれまでに、日本人ナルコレプシー患者の検体を用いたゲノムワイド関連解析により、CCR3遺伝子の近傍に位置する一塩基多型がナルコレプシーと強く関連することを明らかにした。さらに、ナルコレプシー患者のCCR3のmRNA発現レベルが、健常者と比較して有意に低いことを見出した(Toyoda et al 2015)。さらに、CCR3遺伝子がナルコレプシー発症にどう寄与するかを知るため、Ccr3ノックアウト(KO)マウスを用いた動物実験を行った。Ccr3 KOマウスの脳波を測定したところ、明期(休息期)の睡眠が断片化していることがわかった。これは、ヒトナルコレプシーの夜間睡眠の断片化に似ている。また、免疫組織染色により、Ccr3 KOマウスは、同胞野生型マウスよりも視床下部のオレキシン細胞数が約10%少ないことがわかった(論文投稿中)。 近年、ナルコレプシー発症と感染症との相関が複数報告されており、免疫系に影響を与える外的要因がナルコレプシー発症の引き金になることが強く示唆されている。そこで、研究代表者は、遺伝要因(CCR3の機能不全)と外的要因(免疫系の活性化を引き起こすもの)との相互作用によりナルコレプシーが発症するのではないかと考えた。本研究では、ナルコレプシー発症を引き起こすための外的要因(実験的炎症誘導等)の条件検討を行っていたが、研究代表者の所属機関辞職に伴い本研究を廃止した。
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