研究課題/領域番号 |
17K17656
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白 春花 東京大学, 教養学部, 特任講師 (40791976)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 関係節構文 / 曖昧性処理 / 処理構造 |
研究実績の概要 |
本研究は、“バルコニーにいる女優の友人は…”という構造上曖昧性を含む構文の処理に着眼し、第三言語の文処理における第二言語、第一言語の影響を明らかにすることを目的とした。上述の文では1)主要部が関係節に後置する; 2)関係節であることを明示的に示す関係代名詞が存在しない; 3)“女優”が入力される時点で、それが関係節の主要部として唯一の候補になる; 4)“友人”の入力が、関係節の主要部に曖昧性を生じさせるという構造上の類似性が存在する。それに、日本語、中国語、モンゴル語、三つの言語は統語構造上類似性を持つ。本研究は、上述の文において、モンゴル語―中国語のバイリンガル話者の日本語学習者、中国語母語話者の日本語学習者、モンゴル語母語話者の日本語学習者の処理選好性に相違があるか、ある場合、それを生み出した仕組みがなにか、明らかにすることを試みた。これまでの研究では、母語話者の文処理では、日本語、モンゴル語母語話者は”友人”を関係節の主要部として選好することに対し、中国語及びトルコ語母語話者は“女優”を選ぶ傾向が明らかになった。つまり、同じく主要部後置言語の中でも処理選好性の相違があることが明らかになった。また、学習者の文処理において、中国語母語話者の日本語学習者は中国語母語話者の処理選好性と類似し、“女優”を選選ぶことに対し、モンゴル語母語話者の日本語学習者はモンゴル語および日本語話者の選好性を同じく、“友人”を関係節の主要部として選択していることがわかった。また、モンゴル語―中国語のバイリンガル話者の日本語学習者は中国語母語話者の日本語学習者、モンゴル語母語話者の日本語学習者のような明白な処理選好性がなかった。これまでの研究は、第三言語の文処理において、既習言語のL1とL2両方とも影響をしていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は当初モンゴル語母語話者およびモンゴル語母語話者日本語学習者を対象に彼らの関係節の曖昧性構文処理を調べるオンライン実験の実施を予定していたが、新型コ ロナウイルス感染症の影響に伴い被験者の募集が困難であったため、実施できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
中国語母語話者及びトルコ語母語話者の日本語学習者を対象として集めたデータを再整理し、雑誌論文の形で公表する。また、“バルコニーにいる女優の友人は…”という構造上曖昧性を含む構文の処理において、日本語、モンゴル語母語話者は”友人”を関係節の主要部として選好することに対し、中国語及びトルコ語母語話者は“女優”を選ぶ傾向が明らかになった。つまり、同じく主要部後置言語の中でも処理選好性の相違があることが明らかになった。しかし、このような選好性を生み出すような処理を具体的に動かす情報やその重み付けを特定できていない。上述に文において、時間軸に即して得られる順番から考えると、“女優”が現れた時、“友人”がまだ現れていない。つまり、“女優”の時点で“女優がバルコニーにいる”と解釈するし、それしかない。なぜモンゴル語および日本語母語話者はわざわざその最初の解釈を最終的に“バルコニーにいるのは女優ではなく、女優の友人である”に切り替えているか、その背景にある仕組みが明らかになっていない。人間の文処理は、時間軸に即して得られる入力を保留することなく高速かつ効率的に正しく行われる。このような、高速かつ効率的に正しい解釈に到達できるということは、部分的にしか与えられなかった情報の中で、われわれの脳にある解析器はいくつもの候補の中からある解釈のみをあらかじめ優先的に選好する傾向が存在することを示している。そして、このような選好性を生み出すような処理を具体的に動かす情報を特定し、関与する情報やその重み付けを特定することで、人間の文理解メカニズムとはどのようなものなのかという、文理解研究の中心的な課題に迫ることができる。主要部後置言語の処理構造上の相違を明らかにするため、日本語及びモ ンゴル語の関係節の構造的曖昧性構文処理構造に関する眼球運動測定調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度では、関係節の構造的曖昧性構文の処理に着眼し、日本語母語話者及びモンゴル語母語話者を対象に眼球運動測定方法を用いて調べる予定だる。母語話者の文処理が実時間処理においてどのように行われているのか、具体的に、“バルコニーにいる女優の友人がとてもきれいだ”のような関係節の構文において、モンゴル語母語話者及び日本語母語話者は“友人がバルコニーにいる”と解釈するのに対し、トルコ語母語話者および中国語母語話者の場合、“女優がバルコニーにいる”と解釈する。同じく関係節主要部後置言語の中で異なる処理結果に至っているが、具体的なあり方について明らかになっていない。上述に文において、時間軸に即して得られる順番から考えると、“女優”が現れた時、“友人”がまだ現れていない。つまり、“女優”の時点で“女優がバルコニーにいる”と解釈するし、それしかない。なぜモンゴル語および日本語母語話者はわざわざその最初の解釈を最終的に“バルコニーにいるのは女優ではなく、女優の友人である”に切り替えているか、その背景にある仕組みが明らかになっていない。また、今まで集めたデータをもとに論文を執筆し雑誌投稿をする予定である。
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